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皿3(表)

「え? え?!」
それは一瞬の出来事でした。

皿の上に乗せられた料理は、ソースごと、跡形もなく綺麗に消え去ったのです。

見習いは恐怖が再び襲ってきて、口とフークとナイフをカチカチと鳴らしています。
ほ、ほら……。
そう声を発したくとも、見習いは声を発することが出来ません。

さすがに料理長もそれを目撃しただけあって、驚きはしたものの。
即座に大笑いを始めました。

「ははは! 皿まで魅了する俺の料理ってか!
そんなに俺の料理がうまかったってことか」
料理長の大笑いに緊張がほどけたのか、それでも両手にナイフとフォークを持ったまま、見習いは声を発しました。
「な、何を、云っ、て、るんで、すか」
縋るような目を向けられ、料理長は答えます。
「ん? よく考えればわかるだろう」


料理長は説明を始めました。
まず、素材そのものを乗せた時、なぜ食材が消えなかったのか。
――味が無かったんだろう。

では、新人が作った料理を乗せた時は、なぜ料理は消えなかったのか。
――味がまずかったんだろう。
実際、料理長が味見をしたところで、客に出せる代物ではなかったのです。

では、料理長が作った料理を乗せた時は、なぜ料理が消えたのか?
――美味かったに決まっている!
それが料理長の出した答えでした。

試しに、他の食材や料理を置いてみると。
料理長の云うように、全く無くならないもの、すぐになくなる物。
その平均を取らなくても、すぐにわかりました。

「人間よりもよっぽど素直でわかりやすいな、こいつは」
皿をしげしげ見ながら、料理長はしばらく思案していました。

「なぁお前。
この皿に気に入られるような料理を作ってこそ、一人前と云えるんじゃないか?」
「えぇ!?」
云われてみればそうかもしれない。
けれど、こんな気味に悪い皿を手にしたくは……。
見習いがもじもじしていると。
ほれ、とその皿を見習いに寄越してきました。

「え?!」思わず手から皿を落としそうになった見習いコック。
「おっと、危ないじゃないか」それをどうにか受け止める料理長。

「俺の作った料理が無くなるのは困るからな。
これは客用の皿としては使えない」
「そ、そりゃそうでしょう」
手元にある皿を気味悪く思いながらも、どうすることも出来ない皿を、見習いが手に持て余していると。

「お前にコレを貸してやろう。
これを満足させるものが作れるまで、毎日毎日仕事が終わった後に精進するがいい」
ははは、そう云って、料理長はその場に見習いを残して去って行ってしまいました。

ぽつん、と、一人と一皿、置いてけぼりになり。
我に返った瞬間。
見習いは薄気味悪い皿を捨てようと手をかけようとしました。
が、しかし。

そこは体育会系でもある上下のしっかりしている縦社会。
ぶるぶる震えるその手の中にある皿。
理性でそれを落とすことだけは避けられました。
そうして見習いは、尊敬する料理長の云いつけを守ることにしました。

仕事が終わると、一人で練習をする時のお供として、その皿に気に入られるように、何度も何度も料理を作りました。
最初は薄気味悪く思っていた新人でしたが。
あまりに自分が作った料理が消えないのに腹が立ち、闘志を燃やすこととなりました。
それから数か月。
ようやく皿に乗せた料理が、ぽつり、ぽつり、と無くなっていき始めました。

そうして見習いが作ったどんな料理も皿から消えるようになる頃には。
料理長助手としてまで手腕を上げ、その後、見習いは独立していきました。

それからその皿は、代々、見習いコックに引き継がれるようになったとさ。
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