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かごめ1

か~こめ♪ かこめ♪
(ここは?
ふと気づくと、暗闇の中。
私は膝を抱えてしゃがんで座っている)

か~ごの♪ な~かの♪ とーりぃは♪
(あぁ、そうか。私が鬼なんだ。
なぜか自然に理解し、私は曲に合わせてリズムを取っていた)

い~つ♪ い~つ♪ でーやぁる♪
(私の周りをぐるぐると、楽しそうに回る子たち。
鬼の私を閉じ込められて、嬉しそう。
何だか仲間外れになったような気分になる。
鬼の私は、ここから動けなくて行き場を失っている。
動けない。だから縮こまるしかない)

夜明けの、晩に♪
(輪がどんどんと、私を攻めるように迫ってくる。
私は怖くなり、体をギュッと抱え込んで身を守ろうとした。
そんな子等の行動に、どうしても、顔を上げることが出来ないでいる。
どうして怖い、なんて思うんだろう?)

つーると♪ かーめが♪ すーべった♪
(輪は少しずつ大きくなり、圧迫感が消えてほっとする、のも束の間)

後ろの正面、だぁれ?
(歌が止まり、回っていた子も止まり。
じっと私の言葉を待っている、ように感じる。
再度、無言の圧力がのしかかってくる。
鬼って、こんな風に迫害されないといけないものなの?
そもそも後ろにいる子の名前を答えたら、どうなるの?
その子が今度はこの場所に入ってこの恐怖を味わうの?
私は答えることが出来ず、やっちゃいけないことをした。
答える前に、私は振り向いたのだ。
そうして、私は瞬間、固まった。
そこには髪の長い子がいた。
目は長い髪に隠されていたけれど、なぜかその目をはっきりと見て取れた。
私と視線が合うと、さも嬉しそうに、その子はにやりと笑った。
見下されたような、見降ろされたような。
けれど、綺麗な口元で、目が逸らせない。
なんとも云えない違和感。
私はそんな子を見ていたくなくて、周りの子たちに目をやった。
同じようないでたちではあったけれど、その子とは、
口元、顔の表情が微妙に違っていた)


にやり、と悪意の笑みを浮かべたその子は。
ゆっくりと私を追いやって、私のいた場所に、さも当然のように収まった。
まるで、その場がその子がいる本当の場所のように。
まるで違和感が無かった。
皆に囲まれているのに、何でか誇らしげに見える。

追い出された私は、一瞬立ち尽くした。
けれど。
その子がいた両隣の子等が私の手を掴み、その子が居た場所に私を収めてくれる。
私はその手に、なぜか安堵と不安を感じながら、くるくる回る輪の一部となっていった。

歌が始まり、その子が鬼のまま、歌は続いていく。
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Dish 10


“ったくさ。折角の滋養がさっきので全部パァだよ。
少しでも旨いもん、体内に入れなきゃならん”
腹を立てた皿でしたが、その後に自らの上に乗っかった、いつもの美味しい食材がヒビから入るのを感じると。
一気に食材を平らげたのです。



目の前で自分の料理が消えたのを目撃した料理長。
いきなり大きな声で笑い始めました。
「ははは!! お前は正しかったんだな」
腹が痛いと、ひーひー云いながら笑っています。
「わ、笑い、ことじゃ、無いです」
必死に料理長にしがみついている見習いは、居たたまれずにいました。

「もしかしたら、付喪神かもしれないな」
はぁ、と一呼吸着くと。
「ま、まさかぁ」あんなのは、おとぎ話の世界じゃないんですか?
見たくないけれど、目線を外せば何が起きるかわからない。
見習いは怖いながらも、皿から目が離せません。

「で、でも、どうして俺の料理は……」
「まずかったんだろう」きっぱりと告げる料理長に、
見習いはその場にへたり込んでしまいました。
そのショックは恐怖だったのか、尊敬する料理長に認められないことだったのか。
見習いにはわかりませんでした。

ほれ、と料理長はいきなり見習いに皿を寄越してきます。
けれど見習いは、一瞬躊躇して落としそうになりました。
気味悪いのと尊敬する料理長が渡してきたこと。
瞬時に天秤にかけると、見習いは皿をきちんと受け取っていました。

「うぁ。何するんですか!?」
それ以上触るのすら嫌で、皿をつまんだ見習いに、
「神っていうくらいなら、大事にせんとな」
見習いに、料理長は意地悪い顔を向けます。

「貸してやる。お前がきちんとした料理人になりたいというのなら。
これ使って精進してみたらどうだ?」
「え?」見習いの、さも嫌そうな声がかかってきました。

「化けもんじゃなくて付喪神っていうなら、舌も肥えてるんだろうよ。
お前の料理が上達すりゃ、その皿だって認めてくれるってなもんだ。
それを使って、腕をあげろ」
ははは。笑ってその場から料理長は去っていきました。
その場には、皿を手にした見習いが、ぽつんとしゃがみ込んでいました。

料理長から受け取ってしまった皿です。
捨てるわけにもいかず、しぶしぶ手元に置いていた見習いでした。


最初は気味悪がっていたけれど、皿が噛みつくわけでも襲ってくるわけでもない。
それがわかって以来見習いは。
料理長の言葉に従って、地道に、その皿に認められるよう、努力しました。


それから、その皿は引き継がれ、重宝されるようになりました。




“まったく馬鹿よね。アイツ。捨てられなかっただけいいけれど”
静まり返った深夜の食器棚の中で、いつものように言葉が行き交います。
“そうよねぇ。結局がっついたせいで、毎日の楽しみ無くしたんだから”
“自業自得”
“帳尻が合ったんじゃないの?”
“ま、あたしらだって、いつ老皿になって、この場から去るかわかんないんだから。
今を楽しんどかなきゃね“
“そういう意味じゃ……”
“何?”
“アイツはいつこの場所から去るかわからないあたしらよりも、幸せじゃないの?
少なくとも、あたしらよりは長生きできそうよね”
“あたしらよりも、いい身分を手に入れたってこと?”
“さぁ、どうだろうね”



Dish 9

次にその異変に気付いたのは、見習い料理人でした。

「本当に料理が消えるんですよ! この皿、捨ててください!」

料理長は笑いながら、先輩たちにからかわれているんだ、と軽くいなします。
けれども、見習いは納得しません。

呆れた料理長でしたが、この忙しい時期に見習いでも辞められたら困ると考え、
見習いが納得するように付き合うことにしました。

「じゃ、コレ。置いてみろ」
渡されたのは、冷蔵庫から出したばかりのトマトでした。
恐る恐る見習いは皿の上にトマトを置きます。
表面上は何も起きません。



“ひゃ! うぉ! いきなり!? なんだ!!”
皿は一瞬で目を覚ましました。
体の上に冷たさと重さを感じ、身の毛もよだつほど驚きました。
けれど少しすると冷静さを取り戻した皿は。
また何か乗っかったのか。
とヒビに入るものを味わおうとしましたが……。
ですが体のソレはヒビの中には何も入らず、ただ冷たく、重いだけでした。
“何コレ?”
皿はそれ以上とくに反応することなく、重さに耐えるしか出来ません。



置かれたトマトは何も変化しませんでした。
「ほら、何も起きないじゃないか」
料理長の言葉に、けれど見習いは納得しません。
じゃぁ、と目についた見習いの料理を乗せてみることを提案しました。

皿の上のトマトはどかされ、今度は見習いの料理が皿の上に乗せられます。




ヒビの中に浸みこむ物体に、皿は一瞬喜んだのもつかの間。
“うえ、何これ? 激マズ……”
思わず皿は、自らのヒビをふさがんばかりに体を縮こませます。
ヒビの中にはどんな汁1滴すら入りませんでした。



「何も変化しないな……」
料理長はそれでも納得しない見習いに、一つ料理を作ってやることにしました。
腹がふくれりゃ、変な妄想だって治まるだろう。
そう考え、見習いには指導と称し、キッチンに残っている食材で料理を作ろうとしたのです。

「ほれ。その皿、寄越せ」
「は、はい」
あれだけ食材を乗せても変化しなかった皿の上。
見習いはほんの少し納得しつつありました。
そうして料理長の置く芸術的な料理に感嘆するころには、恐怖も失せていました。

すっかり元気を取り戻し、
「いただきます」
元気よく見習いが食べようとした瞬間。
皿の上に置かれた料理は突如消えてしまいました。
呆然としている見習いの前の皿は、料理が消えた以外、何の変化もありませんでした。

「へ?」
見習いは眼をこすりながら、何度も皿を見ました。
「お前、今、見たか?」
料理長が見習いに声をかけると、震えた声で、
「み、見えません、でした」
ぼんやりしていた見習いでしたが、我に返ると料理長にしがみ付きました。
「ぎゃぁ! ば、化け皿だ!」
ようやく驚きの声を上げました。

Dish 8

そんなある日のこと。
客へ出す前に並べられた、料理の盛り付けられた皿たち。
その中の内の一つの皿。
それには綺麗さっぱりと何も乗っかっていませんでした。

そうです。
皿はヒビの間から、自らの上に乗っかった料理を全部平らげていたのです。

“今日のもんは、一段と味わいぶかかったなぁ”
満足していた皿がうとうとしていると、いきなり声が聞こえてきました。

“んだよ、いい気分に浸っていたっちゅうのに”
気が付くと、大勢の皿の中からいきなり引っ張り出されました。

“な、何すんだよ!”
いくら怒鳴ったところで皿の声は人間には聞こえません。


「ほ、本当に料理が消えたんですよ!」
若手のウェイターは料理の消えた皿を先輩に見せました。

「んなことある訳ねーだろ」
先輩は全く取り付く島がありません。
けれどもあまりに若手がうるさいものなので、先輩はうんざりしてしまいました。
ふと見ると、見習いの作った料理が目に入ります。
「だったら、そこにある料理を乗せてみろ」
先輩に云われるまま、ウェイターはその料理を乗せてみました。
が。

”うえぇ、まっず。こんなのいらない!”
次に置かれた料理に対し、皿は自らのヒビをふさがんばかりに体を縮こませました。
ヒビの中にはどんな汁1滴すら入りません。
そのため、皿の上は何の異常も見当たりませんでした。

一分、二分、……十分。
「十分だろ、時間の無駄」
「あれ? おかしいな?」
「忙しいんだよ、さっさと運べ!」
先輩に頭を叩かれつつも、
おっかしぃなぁ? 
新人はどうにも納得がいかないまま、空になった皿を厨房に戻し、仕事に就きました。

Dish 7


ウェイターの言葉に。
”へへっ。俺様もじっくりと、ご賞味させてもらうよ”

今は攻撃してくると思っていたナイフとフォークでさえ、
俺様の味方に思えてくるから不思議でならない。

“おい、お前等、上手い具合に切って、それをここの割れ目に落とせ!”
“えぇぇぇぇ…。そんな。僕は人の手にかかっていて、自分じゃ動けないんですよ~”
情けない声のナイフは相変わらず皿に振り回されていました。
相方のフォークは、今までのように皿をからかえなくなり、だんまりを決めこんでいます。

時々、ナイフとフォークの使い方が分からない人間は、
皿の腹をぶち抜かんとするくらい力をかけますが。
皿にとっては、ヒビが大きくなるのでなんとか我慢が出来ました。


ヒビが広がるほど、俺様の体内に入る味わい深いもんが増えるな。

体内に入るものの味わいを感じつつ、皿はふと思います。

しっかし、老皿とかそういった仲間たちは、みんなこんなことをしていて、知ってて。
新参皿には云わなかったのか? ひで―奴等だな。

皿はそうひとりごちますが。
そういう皿も、新しく入る皿に、何も教える気は全くありませんでした。
意気がる新皿に、何を云っても無駄ということを、自ら体験しているからです。


味を占めた皿のヒビには、その内に段々と美味い固形物が入る量も増えていきました。
最初は客の食べ残し。
それらをぺろり、と平らげます。
“滲みこんでくるもんよりも、こりゃ元気になれるぞ!”

味を占めた皿は段々とエスカレートしていくようになりました。



客同士の歓談中。
皿の上で切り分けておいた食材が、一つ二つと、彼等が食べる前に消えていくのです。
客は不思議に思いつつも、歓談が楽しく、無意識に食べていたのだろう。
自らをそう納得させました。

Dish 6


もしかしたら、俺の性格が変わるのかもしれん……。
それを考えるとぞっとする。

とはいえ皿は以前のように、自身に乗っかる物に文句を云うことも無くなりました。
なぜならば。
ヒビから浸み込むモノは、皿をどんどんと元気にしていったからです。

元気が出る。
それがわかると、皿は段々と体に乗っかるその荷物を味わうようになりました。

今日の味は、気分をゆったりさせてくれる。
この味は、元気になる。
これは、寒くなる。
などなど。

毎日変わる味わいに、段々と舌も肥えていきました。

体内にそれらの食材を取り入れた皿。
皿自身はそのせいで、どんどん綺麗なブルーに変化したことを知らないままでいました。




「おや、こんな綺麗な皿があったのか?」
料理人はその綺麗な色の皿を重宝しつつ、以前よりも、その皿の出番は増えていきました。


そんなある日のこと。
厨房にはいつものように声がかかります。

「はい、出来た。3番テーブルもってって!」
「了解!」

ウェイターが何気に皿を見ると。
クリームで絵付けされている模様が歪んでいるのに気付きました。

「おや? いつも完璧に仕上げる料理人なのに」
ちらりと厨房をのぞくと、そこはいつも以上に大わらわです。
それを見て、ひとり納得したウェイターは呟きました。
「今日は格別に忙しいもんな、こんなこともあるさ」

そうして、そのちょっと不恰好になった料理をそのままテーブルに運びます。
「どうぞ」
「わぁ。美味しそう」
にっこりと笑う子供の姿に、ウェイターはさっきの疑問もどこへやら。
微笑みを返します。
「どうぞ、ごゆっくりご賞味ください」

Dish 5

“何で、何で!?”
……唖然呆然。
“今日も俺の体に、なんで冷たいニュルニュルしたもんが乗っかってんだ?!”

皿は信じられない! と云わんばかりに、
誰に向けてよいかわからない怒りを空に向け、声を張り出しました。

“昨日、散々水の中で痛い目に遭ったというのに。
折角の白い肌に傷をつけたというのに。
なぜなんだ!!!“

しかしその声は誰にも聞きとられず、虚しくこだまするだけでした。

残念なことに皿のヒビは目立たず、料理を載せるのには何らの支障が無かったのです。
何より、下働きが給料を差っ引かれたくないため、欠いたことを黙っていました。
料理人は忙しさのあまり、少しのヒビにはまるで気づかず、皿を使い続けました。


“はぁ…。俺って。何やってんだろう”
今日もナイフとフォークに体をいたぶられ、
ヘロヘロになりながら、水と泡の風呂に浸かって一日を終えました。

“はぁ”
あれ? 何だか息苦しい…。
溜息をついたでいか?
これも肉体労働のせいだろうか?
それとも老体になるって、こんな感じ……?

皿は自分で云った言葉に落ち込むと、それ以上突っ込みを入れることも、ここから逃げ出そうとすることも、考えることが出来なくなっていました。

息苦しさを感じながらも、皿に対する毎日のように悪魔の所業は続いておりました。



そんなあるとき。
皿の割れ目から液体が一滴、体の中に入ってきました。

痛い! 熱い! 重い! 気持ち悪い!!!

今までそんなことばかり思っていた、体に置かれたもの。
健全な表面でいられ時は、それくらいしか気に成らずにいられていたのです。
しかし今は……。
皿にのっかるその一部。
それが皿の体内に浸透してきたのです。

“んん!? なんじゃこりゃ!!”
シミ一つ無いのが自慢の皿に、黒いミシが一筋出来てしまいました!

“うびゃーー”

皿は自身の体が真っ黒に染まる内部に驚き、浸食を止めようとしますが。
憐れ。どうしょうもありませんでした。

“や、やめろ! 俺の中に入ってくるんじゃねーよ!……”

けれど、虚しいかな。液体はどんどんとしみこんできます。


“俺も、これで、終わり、か…”
そう考え、全てを受け入れた瞬間。

今まであんなに辛かった息苦しさも消え、どんどん元気を取り戻すようになっていきました。

“な、なんで?”
びっくりする皿でしたが、ふとあることに思い当りました。

“あいつらが云ってたのって、もしかしたらこれのことか?!”
頭に浮かぶは、あの姦しい仲間の皿のこと。

若いからまだわからないだの、なんだの。
そういや、あいつら変なことを云ってたけれど。

そのことを思い出すと、皿は体内に入る異物以上に、真っ青になるくらい驚愕しました。
”もしかしたら、俺も、あんな風に、いやん、とかその内に云い出すのか?”
ぞーーーーっ|||

皿はそう考えただけで、一瞬にして綺麗なブルーに変化してしまったのです。

Dish 4

いきなり指名を受けたナイフはびっくりします。
いつもその皿におどされているナイフは、びくびくしながらも、正直に答えます。

“えぇ!? 私の力では無理ですって!
私がいつもあなたを刺しているのは、人の力があってこそ、なんですから”
もうこれ以上は勘弁してくださいよぉ…。

水の中にいても泣き崩れそうになるナイフに向かい、皿は要求を云い続けます。
“無理でもいいからやれ!”

そんな皿の願いが叶ったのか。
そのナイフが水中から救い上げられ、一気に落下しました。
カッシャン……。

小さい音が、水の中に響き渡ります。

「やっべ……」
食器を洗っていた下働きが、皿の上にナイフを落としたのです。

“う、げぇ……。いってーーな、お前。本当にやりやがったな!”
“え? そ、そんなぁ。やれって云ったり、やったらやったで……”
理不尽な怒りを向けられたナイフは、もう半泣き状態でした。

本気では怒っていない皿でしたが、痛みはやはり堪えたのです。
“まぁよし。いい具合にヒビが入った。これで俺の役目は終わるだろう”
今日の終わりには、俺様もあっちの棚に移動だな。
ふふふ。

内心、にやけが止まらない皿の思惑とは裏腹に。
その願いはあっさりと叶えられずにおりました。

Dish 3

――はぁ……。
今日も一日。
悪夢の日が終わった……。

冷たい水と柔らかい泡の中。
この中が、俺が二番目に落ち着く場所だ。

ゆったりと浸かる泡水の中。
俺はぼんやりと考えた。

どうしたら、この悪夢から逃れられるんだろうか。
どうしたら、この場所から逃げられるんだろうか。

ふと、目に付くのは、目の前で振り分けられる同僚たち。

“おい、お前等。寝床が違うじゃないか、どこに行くんだ?”
“おぉ、お若いの。老体は去るのみじゃ~……”

目の前から去っていく古参どもの声。
段々と遠くに響く音がこだまし、静寂が訪れる。
同じ釜の飯をくらった老いた仲間は、そのままどこかへと姿を消した。


毎日のようにそんな姿を見ていると、さすがに知恵がつくものだ。
老いた仲間の行く末がどうなっているのか。
どうすれば同じ末路を辿るのか。
そういったシステムを次第に理解出来てきた。


“そうか。ここから逃げるにはその手があったのか!”
ふふふ。不敵な笑みをたたえると、
“おいお前、俺の上に落ちろ!俺を傷つけろ!”

俺は顔見知りのそいつに、そう叫んでいた。

Dish 2

「はいよ、出来た」
“ちょ、お前! 端を強く握るな! 乱雑に触るな!”
「はい」
“い、いて、いてーーんだって!”
叫んだところで奴等に俺の悲鳴すら聞こえていない!

“あら、いい声で鳴いているわ♪”
俺の悲鳴に喜んでいるのは、あの変態どもだけだ!

そいつらの声からも離れ、俺はゆっくりと地面に着地させられる。
「ごゆっくり」
ほっとしたのもつかの間。
俺の目前に迫るは鋭い切っ先2つ!
“ぎゃー!
や、やめろ! お前ら何すんだ! 俺の繊細な体を突き刺すな!”

俺の悲鳴に相手が驚いたところで、その自由権は相手にも無い。

“えっ、えっ、そ、そんなことを云われても、……ごめんなさい”
切っ先の1つは、おどおどと、小さな声で謝るが。

“なによ、謝る必要なんて何もないのよ! 
私達があんたを、わ・ざ・と、痛めつけてんじゃないんだからさ”
もう1つの切っ先は、にやりと口元は笑いながらも、
“という訳で、仕方の無い事なのよ。ごめんあそばせ。
おほほほほ“
目はらんらんと俺に向けて一気に襲いかかってくる!

“どう考えたって、お前は楽しんでやってるだろう!!!”
俺を付け狙うそいつを見て叫ぶ俺の言葉は、虚しく宙に響くだけだった。

『がつっ』
小気味よい音と共に、
“ぐほっ…。腹、にヒッ、トした、ぜ…”
俺様は一瞬意識を失いかけた。

“私達を持っている奴らが、あんたをいたぶっているだけ”
悪びれもせず、大仰に、
“だ・か・ら、私たちのせいじゃないよの。ねーー”と、
口の悪い切っ先の1つは、相棒に賛同の意を求める。

相棒は相変わらず俺の上に乗っかったもんの上で、
上下に揺られ、ただおろおろとしているだけだった。

“それに、アンタが嫌だっていって体に付けているそれ。
私たちがいるから排除してあげられるのよ、感謝くらいしてほしいものだわ。
ほほほほ“
そう云いながらも、キラリと光るその切っ先は、繊細な俺の肌に突き刺さる。
“うっぎゃーーーー!”

“ほほほほほほ”
俺をいたぶるのが極上の悦と云わんばかりの硬質なそいつは、
俺の上のモンが無くなるまで、執拗に俺の白い体を狙い続けた。


そんな戦いが繰り広げられているとは気づきもしない愚か者どもは、俺たちの上で高笑いをしている。
しかも、時に俺をじっくりとねめつけるように見た上で、思い切り、俺の腹に切っ先のダブルキャストを突っ込ませる!

“ぐはぁ…”
ノックアウト…。
俺は、いつも最後まで意識を保てないでいた。

Dish 1

dish(皿)には、「雑談(おしゃべり)」という意味合いもあるんですね~。





“あ、あっち!!! 今度は何が乗ったんだ?!”
体に感じる熱と、ぬるぬるとした感触。
身もだえするほどの嫌悪感が瞬時に襲ってくる。

“痛い! 熱い! 冷たい! 気持ち悪い!! もう我慢ならん!
毎日毎日飽きもせず、俺様の上に何を乗っけてんだ!“

ゼーハーと一気にまくしたて、興奮して叫んだところで虚しいだけ。
ここには誰も、俺に賛同する奴はいないのだから。
それがあまりに情けなく、毎日一人ごちてみるが、どうにも状況は変わらない。

時々、俺のそんな怒りに余計な突っ込みを注ぐ奴もいる。
しかし返る言葉はほとんどいつも同じだ。

“あー無駄だって、どうしょうもないって、俺だってこんなだし”
体の上に乗せたものを見せながら、諦めの言葉だけを寄越してくる。

まぁ、そんな奴らの中にも、変わった連中も居るのだが……。

“えぇ!? この熱さ、冷たさ、肌触り。何をとっても一級品! 最高じゃないのぉ~。
このよさがわからないアナタは。そうね。
きっと不感症! その若さで、可哀想に……“
よよよ。と、しなをつくり、芝居がかった泣きまねをする奴や。

“あら、違うわ。おねーさま。彼はまだ若いから仕方の無い事なのよ”
ぽっと、白い肌を恥じらうように、体に感じる熱を味わいながら話しに加わる、
一部、変態気味な奴等に。
……俺は憐れられていたりもしている。

“そうよねぇ、お可哀想に。でも安心なさい、きっとその内に…”
次に出る言葉の予測がつくだけに、俺はさっさとその声を遮った。

“お前等のどーでもいい、悪趣味に、俺を巻き込むな!”
そんな反論に意味が無いことを知っている。
けれど云わずにはいられない。

“だったらアナタも、私たちの趣味には文句は云わないことよ。うふん”
そいつらが古参の分、俺は軽くあしらわれているという感が否めない。
俺はまだそいつらの云うようにはガキなのだろう。



確かに俺は若い。けれど、大半は俺と同じ思いをしているはずなんだ。
こんな場から逃げ出したい、そう願っているはずだ。
なのに達観した仲間たちは、じっくりと汗水たらしながら毎日我慢している。
そんな姿を見ると、俺はどうしょうもなくやりきれなくなる。

どうにかして、この体の上のもんをどかしてやりたい!
俺は楽になりたいんだよ!

“はぁ……”
とはいえ、動けぬ我が身。溜息しかつけない。
怒りを身に打ち震えるしか出来ない自分が恨めしい!

俺が内に秘めたる大いなる怒りを持っているとは知らない奴等は、
いつもの通り俺様の体をもてあそんでいやがる!それが一番、腹が立つ!

みてろよ、いつか復讐してやるからな!

皿3(表)

「え? え?!」
それは一瞬の出来事でした。

皿の上に乗せられた料理は、ソースごと、跡形もなく綺麗に消え去ったのです。

見習いは恐怖が再び襲ってきて、口とフークとナイフをカチカチと鳴らしています。
ほ、ほら……。
そう声を発したくとも、見習いは声を発することが出来ません。

さすがに料理長もそれを目撃しただけあって、驚きはしたものの。
即座に大笑いを始めました。

「ははは! 皿まで魅了する俺の料理ってか!
そんなに俺の料理がうまかったってことか」
料理長の大笑いに緊張がほどけたのか、それでも両手にナイフとフォークを持ったまま、見習いは声を発しました。
「な、何を、云っ、て、るんで、すか」
縋るような目を向けられ、料理長は答えます。
「ん? よく考えればわかるだろう」


料理長は説明を始めました。
まず、素材そのものを乗せた時、なぜ食材が消えなかったのか。
――味が無かったんだろう。

では、新人が作った料理を乗せた時は、なぜ料理は消えなかったのか。
――味がまずかったんだろう。
実際、料理長が味見をしたところで、客に出せる代物ではなかったのです。

では、料理長が作った料理を乗せた時は、なぜ料理が消えたのか?
――美味かったに決まっている!
それが料理長の出した答えでした。

試しに、他の食材や料理を置いてみると。
料理長の云うように、全く無くならないもの、すぐになくなる物。
その平均を取らなくても、すぐにわかりました。

「人間よりもよっぽど素直でわかりやすいな、こいつは」
皿をしげしげ見ながら、料理長はしばらく思案していました。

「なぁお前。
この皿に気に入られるような料理を作ってこそ、一人前と云えるんじゃないか?」
「えぇ!?」
云われてみればそうかもしれない。
けれど、こんな気味に悪い皿を手にしたくは……。
見習いがもじもじしていると。
ほれ、とその皿を見習いに寄越してきました。

「え?!」思わず手から皿を落としそうになった見習いコック。
「おっと、危ないじゃないか」それをどうにか受け止める料理長。

「俺の作った料理が無くなるのは困るからな。
これは客用の皿としては使えない」
「そ、そりゃそうでしょう」
手元にある皿を気味悪く思いながらも、どうすることも出来ない皿を、見習いが手に持て余していると。

「お前にコレを貸してやろう。
これを満足させるものが作れるまで、毎日毎日仕事が終わった後に精進するがいい」
ははは、そう云って、料理長はその場に見習いを残して去って行ってしまいました。

ぽつん、と、一人と一皿、置いてけぼりになり。
我に返った瞬間。
見習いは薄気味悪い皿を捨てようと手をかけようとしました。
が、しかし。

そこは体育会系でもある上下のしっかりしている縦社会。
ぶるぶる震えるその手の中にある皿。
理性でそれを落とすことだけは避けられました。
そうして見習いは、尊敬する料理長の云いつけを守ることにしました。

仕事が終わると、一人で練習をする時のお供として、その皿に気に入られるように、何度も何度も料理を作りました。
最初は薄気味悪く思っていた新人でしたが。
あまりに自分が作った料理が消えないのに腹が立ち、闘志を燃やすこととなりました。
それから数か月。
ようやく皿に乗せた料理が、ぽつり、ぽつり、と無くなっていき始めました。

そうして見習いが作ったどんな料理も皿から消えるようになる頃には。
料理長助手としてまで手腕を上げ、その後、見習いは独立していきました。

それからその皿は、代々、見習いコックに引き継がれるようになったとさ。

皿2(表)

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皿1(表)

「やっぱり変ですって!」
見習いコックは料理長をひっぱり、料理がのった皿の置かれているテーブルまで連れてきました。
そこには芸術品と呼べる、綺麗な盛り付けされた料理が並べられています。

ある皿の前までやってきて、見習いが指を差しました。
ぽつん、とその皿にだけ、料理が盛られていません。
料理が盛られた多くの皿の中で、その一皿だけ、空っぽなのです。

「料理が跡形もなく無くなっているんです!
料理が確実に消えるんです!」

確かにその皿の上にだけは料理の影の形もなく、付け合せのソースすらなく、
まるで洗ったかのように綺麗なものでした。

それを目にした料理長は、
「誰かが空の皿を置いたんだ。お前は新人だから、からかわれているんだ」
全く取り合ってくれません。

見習いは真っ青な顔をしつつ、無言で首をぶんぶんと左右に振り、
「消えるんです!」
と、すでに泣き出しそうな状態でした。

見習いの必死の形相に、はぁ。と料理長は溜息をつきましたが、
「……それは、お前の目の前で起きたんだな?」
呆れつつも確認を取りました。

見習いは料理長の白衣を引っ張りつつ、コクコクと今度は上下に頭を振り続けます。
料理長は頬をボリボリかくと、
「じゃ、俺がやってみる。
何も起きなかったら、お前の見間違いってことで、いいか?」
見習いを納得させようと、料理長は尋ねました。
しかし見習いは、今度は上下左右、どちらにも首を振らず、
料理長の白衣を両手で握りしめ、呆れ顔の料理長の顔をじっと見据えていました。

「まぁ、わかった」
料理長が溜息交じりにそう云うと、その皿にトマトを1個乗せてみました。

1分、2分……。何も変化は起こりません。

「ほれみろ、お前の勘違いだろう」
見習いは、それでもぶんぶんと首を左右に振ります。
「料理が、消えるんです!」

どうやったら気が済むんだろうか?
そう思った料理長の目の先に、あるものが入ってきました。
「だったら、そこにあるお前の料理でも乗せてみたらどうだ?」
料理長が指した先には。
練習で作った見習いの料理が、冷たくなったフライパンの上にありました。

見習いは料理長の白衣から手を離し。
おそるおそる、自分の料理を皿の上に乗せました。

1分、2分……。何も変化は起こりません。

「? あれ?」
見習いも、さすがに首をひねりました。
けれど納得はしていません。

「ほれみろ。何にも起きないだろう?」
料理長は安堵しつつ、
「この皿、俺が気に入ってんだから、文句をつけるなよ」
見習いの頭をガシガシと撫でつけ、盛り付けた皿をじっと見ます。

「…それにしても、お前の盛り付け、なっちゃないな」
そう云い終わる前に、料理長がちょいちょいと、皿の上の料理を手直しすると。
幼稚園児の絵が、超一流の画家が描いた絵に変身するがごとく、
ものの数秒で綺麗に仕上がりました。

ほう。
その盛り付け方を見て感動した見習いは、その瞬間、恐怖を忘れていました。

ねぇやんとワタシ

(ノД`)・゜・。
「……ねぇやん、ねぇやん」

“o(>ω<)o”
「聞いてよ!!! うちの社長、酷いんだよ!!

――「またかい? 今度は何だい?」

(⊃Д・、)
「それがさぁ。またいきなり呼び出しくらってさぁ」


――「……今度は何?」


『熱湯で茶入れろ!!!(`д´ )激怒プンプン丸 』
『満杯まで入れろ!!!(`д´ )激怒プンプン丸 』

――「ぐっつぐつの煮立ったのでも入れてやりゃいいんじゃないの?」

Σ(´Д`;)
「そんな高性能な湯沸かし器、無いよ」


――「それよりもさ。
この間のも思ったんだけれど、アンタの仕事、ちゃうんじゃないの?」

(ノд`@)アイター
「そう思うよね……。雇われた職種は事務で、家政婦じゃないんだもん」


――「家で奥さんにいじめられてんちゃう?」

(。-`ω-)ンー
「そいや、社長は家では食器洗わされているって自慢してたよ」

――「自慢ちゃうて。そういうのは。
可愛らしく云って、同情引こうという作戦じゃ!」

(・ω・?)
「作戦?」

――「そう。女はそういう男の弱った所に母性本能とかくすぐられて、ホロリ、
となる率は高いからな」

(。ω゚)ン?
「たかだかそんなので?」
(それ以前に社長に母性本能なんて、ハタラカナイヨ)

――「そもそもアンタは最初から会社で食器やら流しやら、細々やってた。
それが原因じゃ。すべてはアンタが引き寄せた!
でもって、もっとそれを引き寄せただけじゃ。反論は?」

Σ>―(´・ω・`)→ グサッ
「……」

――「それ見て丁度いいと思ったんちゃう?
家で出来んかった亭主関白宣言、社長はアンタで実行しとるんちゃう?

ヾ(;→㉨←)ノ
「そいや、そうかも。
いつもつまんない呼び出し喰らうの、アタシだけ。
社長の目の前に落ちているゴミですら、呼び出して拾わせる!
仕事中でも、お茶入れすら呼び出していれさせる!
他の人には絶対に云わないよ」

――「で、あんたは自己満足のためにせっせとコマネズミのように輪ん中くるくるまわっとる。ほれみぃ、ある意味、社長とバランスとっちゃってんのよ、あんた。
あんたが怖がるから相手は怒鳴る。
何云うたところで甘えられる相手認識で、怒鳴り散らすんちゃうか?
子供と同じでさ。子供は親が絶対に見捨てん!
と思う子は、我が侭を平気で云えるらしいで」


ガクガクブルブル((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
「あ、甘えられているの?
ひぃぃぃぃ。き、嫌われる方法って、ある?」

――「さぁ? ってか、とっくに嫌われ取るんちゃうの(笑)」

白雪と小人たち

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白雪と小人たち

翌日。
魔女はつやつやしたリンゴを数個、ドワーフに渡しました。
「決してこれはお前たちが食うんじゃないよ!」
そう念押しをして。

「さて、どうして食わしたもんか」
「意外と勘がよさそうだから、あげたところで『テメー等が味見しな』とか云いそうじゃないか?」
「戦利品の一環として放置でもしておいておく?」
「それじゃ、いつ食べるかわかんないよね」
うーーーん。
「だったらこういうのはどう?」

ドワーフは器用にも料理をし始め、熱々のアップルパイを2皿焼き上げました。
「こりゃ、うまそうだな」
「間違えるなよ、この部分に魔女のリンゴが入っている」
「わかった、わかった」

「白雪様、熱々のアップルパイが焼けましたが、食べますか?」
警戒していた白雪は、いらない、とそっけなく答えます。
「そうですか、折角の熱々なのに。じゃ、少し残しておきます」
そう云って、白雪の分を切り分け、ドワーフ達は普通のアップルパイを美味しそうに平らげ、仕事に行きました。

家の中に誰もいなくなり、白雪はドワーフ達の食べていたアップルパイが気に成りました。
「うまそうだったわよね。ここじゃ、甘いもんなんて滅多に食べられないし」
ごくり。
白雪の分として残されたアップルパイを手に取り、食べた瞬間。
特には何も起きませんでした。
お腹が満たされ睡魔に襲われた白雪は、そのまま机に突っ伏して寝てしまいました。

トントントン。「誰かいませんか?」
行商人に化けた魔女が、ドワーフの家の扉を叩きます。
「ん、なによ、人がゆっくり眠っていたのに」
と目を覚ました白雪は、肌の感触がいつもと違うのに気付きました。

「うぎゃーーー!」
突如聞こえた悲鳴に驚いた魔女は、返事を待たずに扉を開けました。
「どうなさいましたか?!」
そこにいたのは、あれだけ真っ白だった肌が、褐色になった白雪がそこにいたのです。
パニックに陥っている白雪に向かい、
「あぁぁ、これはいけません! この薬をお飲みなさい!」
と、ある薬を手渡します。
普段なら警戒する白雪でしたが、この時ばかりは警戒心は解かれていました。
云われるまま、魔女の渡した薬を飲むやいなや。

「ぐーーーーー」
白雪は速攻、睡魔に襲われました。
魔女の薬は永遠に寝てしまうという、コールドスリープだったのです。
やれやれ、一仕事を終えた魔女は、後始末とばかりにドワーフの作ったアップルパイを処分し、彼等の帰宅を待っていました。

とんとんとん。
「よう、お帰り」魔女が声をかけると、扉の外では歓声が上がります。
ドワーフ達が帰ってきたのです。

「首尾よくいったんだね」「よかったよかった」
仲間と祝福しあっているドワーフに向かい、魔女が冷静に話しかけます。
「で、どうしようかね、これ」
ドワーフの3倍はあろうかという長さの白雪です。

「これ、どうしようかねぇ?」
「そうだねぇ、家に居れておくのも邪魔だし」
「蓋を閉めておけば、雪や雨風も入らないしいいんじゃないの?」
満場一致で、白雪を箱に入れ、屋外に放置することに決めました。

白雪と小人たち

贅沢三昧の白雪に。
ドワーフたちはどうしたものかと、頭を抱える毎日になってしまいました。

そんなある日。
ドワーフは魔女とばったり会いました。
ドワーフ達は偶然かと喜びましたが、単に魔女が白雪を探していたため、
水晶玉で占った結果、ドワーフに会いにきただけでした。
喧々諤々。

「王妃がさ、白雪のことでまいっちゃってんだよ。も、ノイローゼ」
魔女が云えば、
「そりゃそうだろ、こんな我が侭な女」
「王妃の心中、察するに値するよ」
「人間という生き物はどうして白雪みたいのがいいんだろうな」
家を白雪に占拠されたドワーフたちは悪態と溜息をつきます。

「外見だよ。王妃は王様の愛情取り戻すため健気に外見磨いているよ」
魔女も同情するくらい、王妃には悲壮感が漂っていました。
「我らみたいな存在に云わせりゃ、外見なんかどうだっていいのにな」
「そうそ、心が一番大切だよ」

「あんたたちも白雪に困ってるんだろう? 何かいい案無いかねぇ?」
魔女が困り果てて、ドワーフたちに相談を持ちかけると、
「だったら、肌の一つでも汚くしてやりゃいいんじゃないかね。
人間は汚いのが嫌いなんだろう?」
「そんなもんで、あの女が反省するかい?」
「まぁ、外見を気にするなら試してみる価値があるってなもんだよ」
喧々諤々。
ひそひそとドワーフと魔女の話しがまとまると。
お互いはお互いの住処へと戻っていきました。

白雪と小人たち


「まったく、さみーな。何だってこの国は雪だらけなんだよ」
白雪は寒さに震えながらも、ある場所を目指していました。

そこは。
ドワーフの盗賊が住む家でした。

白雪は目的地に着くと、辺りを見回します。
「しめしめ。誰もいない」
それを確認すると、白雪はスカートの裾を勢いよく捲し上げ、
スカートの下から何やら小物を取り出します。
そうしてドワーフの家を一周し終えると。
家の影でドワーフたちが帰ってくるのを見張っていました。

うーーさみーー、早く帰ってこいーー。
そんな白雪の願いはすぐに叶いました。

「今日も収穫♪」「沢山♪」
呑気に歌い、荷物を大量に抱え、ドワーフたちが帰ってきました。
いよっしゃ! 白雪は内心ガッツポーズです。
あと30センチだ。ひひひ。
帰ってきたドワーフの一人がドアを開けようとした瞬間!
バン!
「ひぃぃぃ!」

白雪姫の作った罠に、ドワーフの一人が嵌ってしまいました。
「何事だ!」「敵の襲撃か?」
慌てふためくドワーフ達。
それを、くくく、と笑いながら見ていた白雪が、隠れていた物陰から飛び出してきました。

「こいつを助けたければ、私をあんたたちの頭として認めなさい」
白雪は逆さづりにされたドワーフを抱え、ナイフで脅かします。
けれど、そこは誇り高いドワーフ達です。

「お、俺の命でみんなが助かるなら。俺を見捨ててくれ!」
逆さになって頭に血がのぼっているであろうドワーフは必死に仲間に訴えます。
仲間のドワーフもそれに従うそぶりを見せた瞬間。
白雪はさらに追い打ちを掛けます。

「お前たちのような下賎な者どもが。
あっさり私みたいな、か弱い女に捕まったとなったら。
世間の評判はどうなるだろうねぇ」
にやり、意地悪い笑顔を寄越してきました。

ドワーフたちは得もいわれない恐怖を感じ、白雪を彼等の頭としてしぶしぶ認めました。
それからが大変です。

白雪と小人たち

「っ、たたたたた。どっから落ちたんだ?」
見上げると、かなりの高さから落っこちたのが目に取れます。
崖の下にも沢山の雪が積もっていたおかげで、
白雪は怪我一つすることありませんでした。

「ち、下賎の民が。散々な目に遭ったわ」
ぶつくさ云いながら、白雪は自分の身を掘り起し、
どうにか立ち上がることに成功しました。
へっぽこ狩人に殺されかけつつも、どうにか逃げおおせた白雪ですが。
結局は雪山の中に置いてけぼりに……。

「予定もまんまと狂っちゃうし!」ここはどこら辺なのかしら?
白雪は辺りを見回しますが、すぐには場所の特定が出来ません。
ちっ。舌打ちしつつ、何か目印は無いかと眺めると。

しゃーないか。白雪は見つめた一点を目指して歩き始めました。


王妃と白雪と狩人


あぁ嘆かわしい。
あんなに素晴らしい王妃様が、人も来ない城にひっそりとお暮しになっているとは。
王妃の住まう山の奥の城を見やり、狩人は一人憤慨しておりました。
これも、なにもかも、王様と白雪のせいだ。

つねづね王妃をお慕いしていた狩人。
どうにかして王様と白雪に一泡吹かせたいと考えておりました。


そんなある日。
狩人の目はある一点を捉えました。
白雪が城の裏門から一人こっそり抜け出す光景が目に入ったのです。

「あぁ、ありゃ、白雪に間違えねーわ。
こんな雪の日に、いったいどこに行こうってなもんだ?」
出て行く白雪の後を付いていくお供も御者も現れません。
「こりゃ、ひょっとすると、神が与えてくだすったチャンスか?」

狩人のしつこい粘着質の願いが天に通じたのでしょうか。
それとも神様が気味悪がって、願いをさっさか叶えてしまえ、と思ったのでしょうか。
まぁ、そんなことはどうでもいい狩人は、白雪の跡をこっそりと追いかけることにしました。

距離もあり、おまけに吹雪になってきます。
狩人は白雪を見失わないのに精いっぱいでした。
やれやれ、どこまでいくんだか。そう狩人が思った時。
白雪がふいに振り返りました。

「おい、そこの下賎な奴、ワタクシに何用じゃ」
ば、ばれていたのか…。内心バクバクの狩人は、冷静に言葉を探し出します。
「あ。あの。姫が供も連れず一人でお出かけになるのを見かけまして」
そう云って、白雪との距離をはかりつつ。
「このように物騒なんじゃないかと!」
狩人は腰にした剣をさっと抜き取ると、白雪に切りつけました。

しかし。
姫は雪に慣れているのか。
名に雪を冠しているだけあってか。
雪の上をダンスでも踊るようにヒラヒラと剣をかわしていきます。

「剣の腕はからっきし。どうせ弓矢すらぺっぽこなんでしょ?」
はっ、白雪は呆れを通りこし、憐みの顔で狩人を見やります。
ぐぅ。狩人は本当のことを云われ、何も云い返せません。

「そんなのが、こ~んな綺麗な姫を殺したがる?
あぁ、そっか。あんたのような下賎な男、誰にももてなさそうだもんね。
だから腹いせか。はた迷惑な奴だな」
ほほほ、声高々に笑いあげ、足取り軽やかに白雪が舞い踊ります。
知らない人が見れば、ため息交じりのその踊りですら、狩人にとっては忌々しいものでしかありませんでした。

ブチッと切れた狩人は、
「お前みたい外面だけな姫は、さっさとのたれ死んでしまえばいい!」
またまた神が狩人の願いを叶えてくれたのでしょうか。
狩人がそう叫んだ瞬間、白雪は柔らかくなった雪に足を踏みつけ。
わっ。と言葉を残したまま。
崖の下へと真っ逆さまに落ちていきました。


「ざ、ざまぁみろ」
捨て台詞を吐くと、狩人はそれ以上白雪を追うこともせず、
白雪を残して雪山から逃げ帰ろうとしました。

しかし、このまま白雪を殺さず、手ぶらで戻ってしまえば。
敬愛するあの可哀想な王妃に対して面目が立ちません。
「私の最愛の王妃。あの人を喜ばせることが出来ない!」
狩人は、はたと気づき一人苦悶します。
ううーん、どうしたものか。

「こんな雪の中に放置されるんだ。
白雪だってそう長くは生きてはいまい。
凍死は確実だろう。春になったら骨でも拾いにくりゃいいさ。
でも、その前に……」

吹雪の中、ガチガチと震えながら、狩人はブツブツ呟きながらも
心の中では、どうしようか、とそればかり考えていました。

そんな折、またしても神様への祈りが通じたのでしょうか。
狩人はタマタマ目の前を通ったトナカイ見ると、
妙案が浮かびました。
「そうだ。あの鹿の心臓を姫の心臓と云えばいい」
そうすれば、姫を殺したという証拠になる。
そうです、狩人は偽造することを思いついたのです。

持っていた弓矢を背中から降ろすと、狩人はトナカイに向かって矢を射りました。
ヘロヘロヘロ。
ぽとり。
強風のせいもありますが、矢はトナカイまで届かず、すぐに落っこちてしまいます。

狩人の腕前は、白雪が見立てた通り、ものすんごく悪かったのです。

けれども狩人は幸運に恵まれておりました。

食糧を求めて冬眠もせずに彷徨っているトナカイです。
お腹が空いてふらふらでした。
狩人がどんなにヘタレであったとしても。
十数回射ることで、簡単に射止めることが出来ました。
トナカイを無事に殺し、心臓を取り出し、肉をさばき。
これで冬越しが出来る! と、うはうはになった狩人は
ご機嫌で、山を下りていきました。

(おいおい、何か忘れていないかい?)

ねぇやんと私

(ノД`)・゜・。
「……ねぇやん、ねぇやん」

“o(>ω<)o”
「もう聞いてよ!!! うちの社長、酷いんだよ!!

「またかい? 今度は何だい?」

(⊃Д・、)
「それがさぁ。またいきなり呼び出しくらってさぁ」

「あんた、毎回呼び出し喰らっとるけど。
気に入られてるんとちがう?」


ヤメテ(゜言゜)アリエナイ…。
「あーでさ。今日はさ。
他人が作った資料について、なんだけれどもさ」

「他人が作ったもん?」

ハァ━(-д-;)━ァ...
「そ。他人が作ったもの。
私が作ったものじゃないの。
でね、それについての文句!!!」

「はぁ?」

σ(・_・;)?
「はぁ? でしょ?
いきなり、マシンガントーク!
ガンガン怒鳴りつけてきてね。
『これは何だ! 何でこうなっているんだ!
この数字はどこから出てきたんだ!!!!!』
って。
私が見た事も無いものばっか、書かれているからわからないでしょ」

「普通に考えりゃ、わからんわな」

ヽ(´Д`;ヽ≡/;´Д`)/ 内心こんな感じで焦りつつ
「『私が作ったものではないからわかりません』
など云おうもんなら火に油!!!
だからさ、とりあえず。作った人に聞いてください。
というのをさりげなく云ってみてはいたのよ。
でも、伝わらず……。
それでも一方的に怒鳴るもんだから、しゃーないわ、って。
ふんふん聞いておいたんだけれどもさ。
その間、10分以上、一方的に怒鳴られ続けた……」


(_ _|||)ちーん。
――『何でわからないんだ!!』
「って云われてもねぇ。
他人が作ったもので、見た事も無いもの書かれていて。
いきなり見せられてわかる人がいたら」

「いたら?」

( ゚д゚)゚д゚)゚д゚)゚д゚)゚д゚)ポカーン…
「天才か馬鹿じゃね?」

「しかし、あんたの社長は、ずれているというかなんというか。
で、怒鳴られた後はどないなった?」

ヤレヤレ ┐(´ー`)┌ マイッタネ
「怒鳴り終わった後ね。
『じゃぁ、作った人間じゃないとわからないんだな』
って、最後にそれだけ云って、作成者のところに行っちゃった」

「オチがそれ?」

( ̄◇ ̄;)エッ
落ちた?
単にストレス発散されただけだよ?

(10)

王妃と鏡3

『そ、そう云えば知っている?
白雪って云えば、外見は綺麗だけれど、内面は酷いって聞いたことあるよ』(鏡D)
王妃を慰めるべく、鏡たちは自分の持っている情報をわさわさと云い始めます。

『あ~、そんな噂あるみたいだな』(鏡A)
『実はさ、白雪。魔法を使えるみたいでさ。
鏡ネットワークに引っ掛かんないんだよ』(鏡C)
『そんなんアリ?』(王妃の鏡)
『そりゃ、王妃がお前に魔法かけるくらいだし。
俺たちだって喋れる魔法を掛けられているんだからさ。
不思議じゃないだろう?』(鏡D)
『そりゃそうか。僕は鏡の魔法をかけられてから新参者だったけれど。
もしかすると白雪って、もっと前から……?』(王妃の鏡)
王妃の鏡は自分の発した言葉の中身を想像すると、
最後まで云い切る事が出来ませんでした。

しーん、と静まり返った部屋の中。
最初に発言したのは鏡Aでした。

『ならさ、いっそ白雪を殺しちゃえば』あっけらかんと鏡Aは云いました。
『だめだよ。そんなことしても意味がないと思わないかい?』(王妃の鏡)
『そのまま死んだら、綺麗な白雪が一生残る。それが噂されるでしょう』(鏡C)
『そうそう』(王妃の鏡)
『冷静だな』(鏡A)
『そんなこと、考えたこともなかったよ』(鏡D)
『確かにそうだね、死んでも綺麗な姿の白雪って、みんなの脳に物スンゴイ記憶として残るよね~』(鏡A)

まだまださめざめと泣く王妃の姿を見て。
鏡たちは王妃を必死に慰める羽目になりました。
(『俺たち、何で王妃を慰めてんだ?』どの鏡もそう思いはしつつも。
誰もそれを言葉に出す事はしませんでした)

『ねぇねぇ王妃』(鏡A)
「……なんじゃ?」
王妃は真っ赤に腫れ上がった目で鏡を見ます。
『王妃は魔女と繋がり出来たんだろう? だったら魔女に薬持たせたら』(鏡A)
「薬?」
『それくらいだったら、気を病むことないでしょ』(鏡A)
「わらわが何を気に病むのじゃ?」
『白雪を変死させるのに』(鏡A)
『そうそう、変死体だよ、変死体。そうすりゃ白雪の体も顔も醜くゆがむ♪』(王妃の鏡)
『王妃は手を染めず、ただ単に魔女に云ってみるだけでいいよ』(鏡A)
「……何を、じゃ?」
『新しい薬、試してみたくありませんか? って』(鏡A)

王妃と鏡2

『や、やめて~!!!』(王妃の鏡)
『鏡殺し! 人でなし! ろくでなし!』(鏡A)
『そ。そうそう、王妃は綺麗だよ。白雪の次に』(鏡B)
『って、お前ら、火に油そそぐんじゃないよ!!』(王妃の鏡)
『や、やめてあげてよ!!』(鏡D)
ぜーはー。ぜーはー。
動けない鏡は必死に王妃に向かい、口々に声を上げます。

王妃は椅子を胸の所まで持ちあげたはいいけれど。
その椅子がかなり重かったようで、腰にきてしまいました。
ドスン。
王妃は椅子を下ろし、腰も下ろし、その場にへたり込んでしまいました。

『王妃。年には抗えないよ。
どうせなら綺麗なおばあちゃん目指しゃいいじゃん』(鏡C)
『そうそう、それだったら、この世界で一番綺麗なおばあちゃんだよ』(鏡B)
『そうだよ、鏡ネットワークで見たって、こんな美しいおばあちゃんいないよ』(鏡A)
「……わらわはまだ、ばばぁじゃないわ!」
キッ、っと王妃は自分の鏡を睨みあげると。

『そうだよね。王妃は小さい頃からずっと綺麗だったもんね』(王妃の鏡)
しみじみと鏡は云いました。
『こんな僕を、王妃はお嫁入り道具として持ってきてくれたんだもんね』(王妃の鏡)
「わらわはこの鏡が大好きだったのじゃ。
我が身を一番綺麗に映してくれるお前が。なのに……」
へたり込みながら、王妃は小さい子のようにさめざめと泣きだしました。
「お前まで、わらわをばかにしおってからに…」
『王妃、泣かないでよ。僕もちょっと云い過ぎた』(王妃の鏡)
鏡たちは自分達の言葉にこれだけ反応する王妃の可愛らしい一面を見て、
オロオロとし始めました。

王妃と鏡1

王妃の自室のその奥の、向こうのその隠し部屋。
そこには王妃が魔法を使い、喋れるようにした大きな鏡が1つ。
部屋の一番よい場所に鎮座しておりました。

王妃は毎日、朝晩、暇があればいつでもそこに、
こっそりと入っていき、鏡に向かい話しかけます。

「鏡よ鏡、わらわを褒め称えるのじゃ」
『王妃様はそりゃ、とてもお美しい! そう年の割に』
「ヒトコト余計じゃ!」

初めは鏡に自分を褒めろ。
など云うのを恥ずかしがっていた王妃ではありましたが。
習慣というのは恐ろしいことで。
今では鏡に褒められるのがすっかり慣れてしまった王妃にとり、
逆に、鏡に褒められないとお尻がムズムズするくらい、気持ちが悪くなっていました。

そんなある日の事。
王妃がその隠し部屋の隣の自室で、うつらうつらと寝入りそうになった時。
ふと、誰かの話し声が聞こえてきました。

おや。侍女でも入ってきたのだろうか?
けれども人の気配は感じられません。
あぁそうか、これは夢か。
大きな椅子に全身を預け、心地よい日差しを全身で受け、
王妃の体は夢の中へのカウントダウン前の浮遊感で一杯です。

よいのう~、この至福感。
そう思っていた矢先。王妃の耳に不快な音が流れこんできました。

ぼそぼそぼそ。
『王妃よりもさ、やっぱ白雪のほうが綺麗だよな』
ん?
『時は残酷。ぷぷぷ』
んん?
『鏡の中の白雪は、一層肌はつやつやぴかぴか♪』
んんん?!

その音を聞き、がばっと飛び起きた王妃。
その音のする方へと耳を傾けると。
隠し部屋から王妃を貶める声が聞こえてくるではないですか!!
王妃の眠気は一気に吹っ飛びました。

秘密の部屋の扉を開け、王妃が仁王立ちになっていました。
目には涙を浮かべ、そんな会話をしている鏡に向かい、大声をあげ、王妃は半狂乱に!

「な、なんで、あの娘ばかり褒めるのだ!!!?
わらわを褒め称えるように、そのために、お前を喋れるようにしてあげたのじゃ!
嘘でもいいから、わらわを褒めなさい!!!
何でわらわを蔑ろにするのだ!
王にも見捨てられた上、その上、お前たちもか!
わらわを馬鹿にするのか!!」

王妃は鏡に一気に云うと、
手短にあった煌びやかなゴッツイ椅子に手をかけます。
よろよろとしながらも、火事場の馬鹿力並みに椅子を持ちあげようとしました。

それを見て驚いたのは鏡です。
きっと王妃は鏡をその椅子で壊そうとするだろう!
動けない鏡は慌てふためきました。

ねぇやんとワタシ



ヾ(。>﹏<。)ノ
「……ねぇやん、ねぇやん。聞いとくれ!!!」

「何だい、景気の悪い面して。
そんなだから幸運にそっぽ向かれるんだよ」

。・゚゚(ノД`)あ゙~ん
「わかってるんだけれどもさ~」

「わかってるんだったら、しゃっきりしんしゃい! で? 何?」

“o(>ω<)o”
「あ~、聞いてよ!!! うちの社長、酷いんだよ!!
自分が入った、トイレの後始末させるんだよ!!」

「……、そ、それはご愁傷様なこって。
ま、トイレ掃除は金運上がるっていうからいいんじゃないの」

o(*≧д≦)o
「会社の金運が上がっても、社員に還元されないぃぃぃ…」

「それだけが金運じゃないだろうよ」

o(>ω<)o
「あ、でさ。今回はこんなことがあったのよ!!
いきなり呼び出しくらってさ!!」

――
『ヽ(#`Д´)ノ ちょっと来い!』
いじめられっ子がいじめっ子に呼び出されるような感じで呼び出しくらい。

「な、なんでしょう?」
ビクビクしながら行ったのよ。

『ヽ(#`Д´)ノ なんでトイレットペーパーが無いんだ!補充しておけ!!!
キチンとトイレの管理くらいしておけ!!』
と云って、私目掛けて、ペーパーの芯投げ捨ててきたのよ!!!

「ひぃぃぃ。わ、わかりました!」
って、その時は答えちゃったんだけれどもさ。
気付いた時には率先してやってるんだけれどもね。
でもさ。
そもそも、私は掃除のおばちゃんじゃないんだし……。
その分のお金、貰っている訳ではないのだし。
それよりも、芯投げつけられる意味がわかんない……。
キチンと掃除の人が入ってくれているんだから、その人にいうべきよね?
でも、社長は云わないのよ。

ねぇ。私がそんなことを云われる筋合いって無いと思わない?

でもってさ、それよりもさ。
社長より前に入った時には、まだしっかりガッツリ残ってたの。
ペーパーは!
だからきっと、社長がトイレに入ってた時に、使い切ったんだろうなぁ…。
って思ってトイレの中を見たらさ。
ペーパーホルダーにはきちんと予備もあって、
尚且つ、棚には丸丸1ダースの新しいトイレットペーパーの山があったのよ!!!

自分で換えりゃ、いいだけじゃなくない?
社長、きっと、自分が使い切る前に無くなったのが気に喰わなかったんだろうなぁ。
って!!!
思ったら腹が立ってさ。
そんなんで仕事中に呼び出しくらって、罵声聞かされた挙句、
芯投げつけられて、酷くない?!!! ヽ(≧Д≦)ノウギャー!!

「な、なんだそりゃ!
相変わらずアンタの会社社長は、ぶっ飛んだ思考の持ち主だなぁ。
笑かしてくれるがな」

(ノд-。)クスン
「本人にしたら笑えないモン!」

「じゃさ、社長の尻拭き専門職にでもなったら(笑)
『お拭きしますよ』って、ずっとトイレにこもってるんだよ。
羽柴秀吉みたいにさ。トイレを温めておきました! ってさ(笑)」

(,,#゚Д゚):∴;はぃぃぃ!?
「あたしゃ、トイレの妖怪か!?
何か用かい? ってトイレ開ける度に云うのかい?
ねぇやんも大概に、ひでーーーな、オイ」

「冗談だって。それだけ元気なら大丈夫だろうよ。
だったら、こういうのはどうだい?」

ひそひそひそ。

(・Д・`)
「それなら、どうかなぁ?」



―― (ρ_;)
「ねぇやん。やっぱ、また怒鳴られたよ。
今度はトイレットペーパーを使うな!!!! って」

「そうかい? いいアイデアだと思ったんだけれどもなぁ」


ねぇやんの秘策(?)
会社のトイレットペーパーを。
物語やダジャレなどが書いてあるのに変えてみる、というもの。

社長が読むためにトイレに籠るのはいいけれど。
他の人が入れなくなった挙句、トイレットペーパーを使わせてもらえなくなる結果に…。
しかも、「続きはまだか!!」って。
怒鳴られたよ…。

「アンタはどっちにしろ、怒鳴られる運命にしかないんだよ。
もう、その道を進んじゃどうだい(笑)」

(> <。) くぅぅぅ
「……」

(40)

虹のたもとに

お母さんたちはまだ家に帰れそうもない。
だから私は来た道を一人で帰ってきた。

本当なら残ることも出来たけれど。
やっぱりどうしても。あの場には居たくなかった。

すっかり日も暮れて、とうに虹も消え失せて、たった一人。
何でだろう、寂しいよりも、悲しくなってくる。



そんな私にいきなり明るい言葉がぶつけられた。

「マリー! よかった。どこに行っちゃったのかって心配したのよ!」
家の前で座っていたあの子が、私目掛けて駈け寄り、抱きついてくる。

え? え?
その事に、私はただただ戸惑うだけしか出来なかった。
だって。それはいつもと同じだけれども、いつもとは違うから。
いつもはあの子が自分のために、泣きついてくるのに。
今日は、私のために、泣きついて、きた?

私より、頭一つ小さい幼馴染で同級生。
すっぽりと私の胸に納まるくらいに小さくて可愛らしい子。
自然に誰からも愛される、そんな女の子。
私にとっては手間のかかる妹のような存在。

そんな妹に、心配されちゃった。

あぁそうか。
私を心配してくれる誰か、きちんといるじゃない。

それだけなのに、何だか嬉しくて。
私も思わずその子に抱きついて泣いちゃった。
あ~ぁ。これじゃ、いつもと立場が逆転だ。
でも、たまにはこういうのもいいよね。
思いっきり、泣いても、いいよね?


そうしたらその子まで、つられて一緒に泣いちゃった。
ふふ。変なの。そんなことで、心が落ち着くなんて、ね。
段々と私は沢山のうれし涙で心が一杯になっていった。


そっか。私は一人じゃないんだ。
何を不安になっていたんだろう?
私は何を見て無かったんだろう?


この子がどんなに五月蠅くても、泣き虫でも。
ちょっとうざったく感じたって。
でも、けっして嫌いにはなれない。
だって、そんな色々な嫌なところがあって、その子なんだもん。

そっか。だから嫌いになれるわけはないんだ。
自分に真っ直ぐで。
私はこの子を見るのが本当に大嫌いだった。
けれど、違ったんだね。
この子は自分の言葉で自分を表現出来るから、ただ単に羨ましかった。


今まで素直になれなかった分。
今度は私がその子に頼ってみようかしら?
そうしたら、この子は幻滅するかしら?

ううん、きっとそんなことはないわよね。
逆にお姉さんみたいに頑張りそうだわ。
私が妹?
ふふ、それも楽しそうね。

あぁそうね。
こうして私が私に嘘をつかないでいることは、とても心地よい気分になれるのね。
初めて知った。
だからこの子はいつも真っ直ぐなんだ。

いやだな。私、ちっとも大人じゃなかったんだ。

私が望んでいたものは、この子がとっくに持っていて。
私が欲しいものは、この子からとっくに貰っていた。

素直に信頼してくれるその目が怖かった。
だって、私には無いものだったから。
でも、本当は私の中にすでにあったのね。
だって、この子がこんなにも私を信頼してくれているんだから。
そう、怖がる必要なんて何もないの。

虹の袂に住めるくらいだものね。
虹はその子を通して、私にも幸福を運んできてくれたわ。

幸せの袂から来た私の同級生。
この子が私に幸せをもたらしてくれたのね。
虹の袂で生まれてきた赤ちゃんも、
この子のように私に幸せをもたらしてくれるのかしら?


(40)

虹のたもとに

「マリー! よく来てくれたわね。さぁさ、見て頂戴」

おばあちゃんに促されるまま、私はその物体を眺める。
それは、とても“かわいい”とは形容しがたい、モノ、だった。

小さい生き物がそこには居る。
とうとう生まれてきてしまった。
それが女の子でないだけ、私はほっと安堵したけれど。
どうしても笑えなかった。
だからその幸せそうな空間から、そっと離れて廊下に出た。


はぁ。
私は空の見えない天井を、ただぼんやりと眺める。
虹の袂に、確かに幸せはあった。

ここには沢山の幸せで溢れているんだから、当然だわ。
でも。それは一体誰の幸せなんだろう?
少なくとも、それは今の私の幸せではないわ。
だって、生まれてきた子を快く思っていないのだから。

心の汚い部分をあざ笑うかのように、もう一人の私が責めたてる。

そうして一人、廊下の椅子に座って泣きそうになった時。
おばあちゃんがそっと寄り添ってくれた。

「一人でよく頑張ったわね。寂しかったでしょう」
うん、うん。言葉もなく頷くと、私の目から自然と涙があふれてくる。

「今まであなた一人のお母さんだったのですものね。
これからは新しく生まれてきた命のお母さんにもなっちゃったわね」

私は肯定できずにいた。

「それは、嫌?」
察してくれたおばあちゃんの言葉に素直に頷いた。

うん。
神様。そう思う私は悪い子ですか?

「そう。素直な良い子だわ」
おばあちゃんは私を肯定してくれた。
きっと神様の代わりに私に伝えてくれたんだ。
なんて、勝手すぎるかな。

おばあちゃんは細い小さい体で、私を抱き締めてくれる。
その暖かさに私は堪えきれず、大泣きしていた。
まるで小さい子供みたい。
きっと私の心の堤防が決壊してしまったのだわ。
そうやって私自身に言い訳しながら。
今までお母さんが入院して家に帰ってこれなくて不安だった分まで。
お母さんが無事でよかった……。

「あら、あら。この子は」
おばあちゃんはただ、ただ頭を撫でてくれている。
なんだか小さい頃に戻ったみたいで、ちょっとくすぐったかった。

「マリーは今までお母さんを独り占めにしてきたのよ。
でも、生まれた子はマリーのように独り占めには出来ないのよ。
なんでかわかる?」
私は首を横に振った。

「お母さんは、今まであなたに注いできた愛情を。
あなたと生まれた子、二つに分け隔てなく愛情を注ぐのだからね。
あの子はマリーのように最初から、お母さんの愛情を独り占めには出来ないのよ。
その欠けた分をマリーが助けてあげないと、可哀想と思わない?」

私はその子を可哀想など、決して思わなかった。
「お母さんの愛情が、生まれた子と私とで、半分になるの?」
貰える愛情が減る、それ以上に、私を見てくれなくなるのではないか。
私を忘れるのではないか。私はそれだけが不安だった。
そう、私は私だけが心配だった。

「そうではないわ。確かにお母さんの時間はその子に沢山割かれることになるわね。
だって一人で動けないのだから。あなたもそうだったのよ。
そうやって、沢山のお母さんの時間を貰ってここまで大きく、よい子に育ったのよ」
そんなことを云われたって、納得出来ない。
だって、私一人のお母さんじゃなくなっちゃったのだから。

「そうね、マリーがお母さんとの時間が欲しいと思うのなら。
あなたが弟にかける時間を増やしてみたらどうかしら?
そうすれば、お母さんはあなたとの時間も持てると思うわ」

でも今の私は、生まれたその子を可愛がれそうにもない。

「それでも寂しければね」
おばあちゃんは私の目を見て、ウィンクして、
「遠慮なく私のところにいらっしゃい。
こんな細腕でも、あなたのための腕くらいにはなれるから。
今だってそうでしょ」
にっこりと私に向けて笑って云ってくれた。

「決して自分の心に鍵をかけて、我慢をしちゃいけないよ」

(40)

虹のたもとに

ううっ。
今日で終わりになるはずが…。

次は、次こそは、笑いを!




消えずに残っているもう一方の虹の袂は、この建物に繋がっていた。

何だか皮肉よね。
ふふ、っと、自嘲気味に私は笑っていた。

私の目の先には、その虹のカケラが映っている。

あの子には虹の袂には宝物があるって云ったけれど。


私は宝物が沢山あるであろう建物の前まで足を向ける。
けれど。
ドアの前で立ちつくすしか出来ないでいた。

ドアは、私の目にはとても大きくそびえたっているようにとれたから。
とても巨大なもので。
とても私一人で開けられるような代物ではなかったから。

でも、それも幻想にすぎないのにね。
でも、どうしても、その一歩を、一手を、とることが出来なかった。

(5)

虹のたもと

電話の相手に呼び出され、私はすぐに用意をした。
っていっても、持ってくもんなんて特別あるわけじゃない。
ポッケに財布くらい。

今日、向こうへ行くとなると。
着くのは夜中になるのかな。

バスに揺られながら窓の外に視線を向ける。
すでに虹の一方は消えかかっていた。
あの子の家に架かっていた虹は消えている。
きっと仲直り出来たんだろうな。
っても、最初から喧嘩なんてしてないんだから、仲直りも何もあったもんじゃない。

くすり。
その可笑しな風景を想像すると、滑稽に思えてきた。
あの子とお母さんが、じゃなくて、私が。
私がまるで道化師のようで。
場をいくら混乱させても、和ませても。
道化師との接点なんて、演者と観客だけでしかない。
結局、今の私。
はみ出し者にすぎないんだな。

もう一方の虹のたもとはまだ、消えていない。

目を閉じて、私はその空間から強制的に目を逸らせた。

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