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虹のたもとに幸せがある。

私はあの子が家に向かって駆けていくのを、窓から眺めていた。

段々とはっきりする虹の色。
それは、あの子の未来を暗示しているかのように思える。

あの子の家には幸せがあるんだもん。
虹の先に幸せがあるって、本当なんだろうな。
帰ったらきっと、お母さんと何にもなかったように笑って過ごしているんだろうな。

騒がしかった家の中、今は深々としている。
あの子が来る前は、それが普通だったのに。
あの子が来る前より、この家の中は深海にいるみたいに音を感じなかった。
何で、寂しい、なんて思うんだろう?

そんな時、一本の電話が家の中に鳴り響いた。




「あら、また出かけるの?」
にっこりと笑うと、お母さんも同じようににっこりと笑ってくれる。
やっぱりマリーは正しいんだ。
「うん。マリーにこのお菓子分けてあげるの」
これはマリーが押してくれた私の背中のお礼かわり。
私はお母さんの焼いてくれたクッキーを袋に入れた。
「本当にあの子の事が好きなのね」
「うん!」
「あの子と同じ年齢なんだから、お前ももっと落ち着いてもいいものだけれどね」
「いいの! マリーは私のおねーちゃんなんだから」
「そうね、よいおねーちゃん、よね」
お母さんの沈んだ声が耳に入ったけれど、私は無視した。
だって、それはいつものお小言にしか聞こえなかったから。

「今日も一人だったら呼んできなさいね」
出かける私の背中にお母さんの言葉が降ってくる。
「わかった!」
私はさっき走って行った時とは違った気持ちを抱えて、マリーの家に走っていった。

ガチャ。ガチャガチャ。
あれ? あれ?
さっきまで簡単に開いたのに。

「マリー、マリー?」
扉には鍵がかかっている。
それはまるで私を拒絶しているように思えて、私の心は不安に包まれ、扉を叩いた。
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わさび!!!

どうでもいい話…。


か、からいぃぃぃ!!!!!


あーーー、確かに。


って、アンタは冷静だね!!!!

…何かと云えば。
新製品でポテチがあったから買ってみたんですよ。
えぇ、そうです。
新製品好きです。
しかも、味は気にせず。
堅焼きとだけしか見ずに…。


買ってきた人の責任だからね。


あぁ、そんなことを云わずに、手伝って!!!

鼻に、鼻に、目に、抜ける!!



丁度いいじゃん。最近また鼻詰まってきてるんでしょ?


そんな、一時的なもん…。
じゃなくて!
辛いんじゃ!!

勿体ないから頑張って食べましたけれども。
味がわからず、、かえって勿体なかった気もしないでもない…。
2袋買ってこないでよかった。

(10)

虹のたもと

バタン!!
「マリー! いるの!?」

小さな家に響く大声は、どこに居たって聞こえる。
いつもの如く、とはいえ。
いきなり聞こえる大声は心臓に悪い。

私はそれ以上大声を出されるのをよしとせず、
部屋から飛び出し、その声の持ち主へと、玄関へと、迎えに行く。

そこには。
いつものように、あの子が仁王立ちで居る。
いつもと違ったのは、その姿がびしょ濡れだったということ。

「ちょっと、どうしたのよ。その姿」
濡れ鼠というのはこういうものを言うのかしら?
呆れつつも、そんなことを考えている間に。
彼女は私に抱き着いてきた。
うわ。冷た…。
私は次にくる寒波を予測し、心を強く持った。

うわわわーーーん!
そう。
次に来るのは、涙の嵐。

それもいつもの如く。
この子はまた、お母さんと喧嘩したんだ。
はぁ。私は心の中でため息を吐く。


泣いているあの子をなだめて椅子に座らせた。
その間に、私はキッチンへと逃げる。
私も落ち着きたかった。
今日みたいな雨の日は特に。
ううん、違う。そうじゃない。

鍋に入れた牛乳が、ぽこぽこ静かに泡を出しながら温まっていく。
膨らんでは消える。泡の繰り返しを見ていると、段々心の凪がやんでくる。
2つのカップに、出来たココアを入れる時には、すでに私の心は落ち着いていた。

「ほら、落ち着いた?」
一通り泣けば冷静になれる。
いつものこと。
だから返事を聞かないでもよくわかる。

「またお母さんと喧嘩したんでしょ」
羨ましさがあるから、私は少し意地悪になって云ってみた。
「本当はわかっているんでしょ?」
「……」
ほら、わかっている。
本気で喧嘩なんてしてないってことを。
「帰れる場所がある。甘えられる人がいる。だからついつい云い過ぎちゃうんでしょ」
「ねぇ。だったらどうしたらいいの?」
そんなの、簡単でしょ?
あなたの家は。家族は。
仲がいいんだから。

「いつものように、帰ればいいのよ」
あぁ、私もバカだ。
たぶん、酷い顔をしている。絶対に。
こんな私の顔、見られたくない。
だから私はこの子の頭をぐしゃぐしゃにしてやった。

「ほら、それ飲んだら帰るんだよ」
これ以上この子が傍にいたら。
我慢していた私の心がきっと破裂しちゃうから。

ふと、顔を上げ、窓の外を眺めると、いつの間にか雨が止んでいて。
うっすらとした色彩が現れてきた。
それは段々と色を強調するかのように、濃くなっていく。

「見て! 見て!」
私は自然と声を掛けていた。
「ふわーー」
そこには大きな虹が架かっていて。
しかも、その虹の終わりは、この子の家に続いている。

「ねぇ、虹のたもとには宝がある。って云うよね」
「うん」
「ほら、早く帰りな。あんたの家に宝物があるんだよ」
やっぱり。私の元には宝はやってこない。

反対側の虹の始まりは、遠い山の向こうにかかっていた。

(30)

虹の橋

「マリー! いるの!?」
鍵のかかってない玄関を開け、私は勢いよく声を上げた。

「ちょっと、どうしたのよ。その姿」
そう。いつもすぐ、マリーは出てきてくれる。
私はその姿に安心して、立ち尽したまま。
何も云えず、体を預けるようマリーに抱き着いた。
だって。彼女は私が云わなくてもわかってくれるから。
そうして大声で私は泣いた。

「ほら、落ち着いた?」
マリーはいつものように、温かいカップに入ったココアを渡してくれる。
今日はタオル付き。
ありがとう。そう口ごもりながら、カップに口をつけた。
こくん。一口含むと不思議と落ち着く。
それはマリーの魔法のようだった。

「またお母さんと喧嘩したんでしょ」
ぐっ。いつもの如く、わかってらっしゃる。
マリーの声色は、淡々としていて表情が読めない。
恐る恐る視線を上げようとすると。
私の頭に優しく温かい手が降ってきた。
だからいつも、私はマリーの顔を見ることが出来ないでいる。
ううん、違う。
見たくなかったのかもしれない。
だって、その手はお母さんとの喧嘩に許しを与えてくれているようで、安心するから。
同い年だっていうのに、彼女は私の神様でおねえちゃんみたい。

「本当はわかっているんでしょ?」
「……」
「帰れる場所がある。甘えられる人がいる。だからついつい云い過ぎちゃうんでしょ」
そうなのかもしれない。
マリーは私がわからない私の心根を、いつも掘り起こしてくれる。
「ねぇ。だったらどうしたらいいの?」
だから聞いてみる。
「いつものように、帰ればいいのよ」
そう云うと、マリーは私の頭をぐしゃぐしゃにしてくれた。
ううん。違う。濡れた私の髪をタオルで拭いてくれただけ。
「ほら、それ飲んだら帰るんだよ」
ううーん。
しぶっている私の頭の上から、マリーの驚きの声が聞こえた。
「見て! 見て!」
タオルをはぎ取られ、私の頭は窓に向けられた。

そこには、雨上がりの空が広がっており、
私の家に、虹がかかっているのが目に映った。
「ふわーー」
「ねぇ、虹のたもとには宝がある。って云うよね」
私達はぼんやりとその光景を眺めていた。
「うん」
「ほら、早く帰りな。あんたの家に宝物があるんだよ」
そう云って後押しされて、私は家にしぶしぶ帰った。

「……ただいま」
おずおず玄関を開けると。
そこには私の好きな甘い匂いが漂っていた。

「おかえり。ほら、早く手を洗ってらっしゃい。おやつよ」
もう怒っていない声でお母さんは私を迎い入れてくれる。

目の前には私の大好きな沢山のお菓子が山となっている。
宝物って、これ?
ぽしり。甘いクッキーを口に入れながら、私はお母さんと何事も無かったように、
笑って話している。

お母さんには何を云っても許してくれる。
そう。マリーの云う通りだ。私はそれがわかっているんだ。
あぁ、そうか。
これが私の宝物、なのかもしれないな。

宝物が何だったかって報告がてら、後でマリーにお菓子のおすそ分けしにいかなきゃ。
そんなことを考えながら、私は目の前の暖かい光景をお菓子とともに味わった。

(40)

成長期2

A:見ろよ。新しく、いきがっている奴が入ってきたぞ。
B:馬鹿だよね、あんなに頑張ってみたって、どうしょうもないのにさ。
C:それを見るのも楽しいもんさ。
B:たかが5センチくらい伸びたところであんなに嬉しそうにして。
A:あ、何かたわごとを云っているぞ。
B:ぷぷぷ。切られてやんの。
C:まぁまぁ。先輩として、温かな目で見守ってやろうじゃないか。
A:そうだな、我が同胞よ。
B:えーーー、つまんないよ、そんなの。
D:だったら黙って見ていたら? 俺のようにさ。

翌日。
B:あーーー、また何か一人で云ってるぞ。
A:お前が注目でもしれやれば?
B:俺、パス! 難癖付けられたら嫌だしさ。
D:そうそう、俺のように黙っていればいいんだ。

翌々日。
B:馬鹿発見。
A:ここまでされるとは、俺も思ってなかった。
C:そりゃ、一番の成長株だから仕方無かったんじゃないのか?
A:それにしてもさ。

切られた新入りを目の下にしながら、古株連中は云いたい放題です。

A:お前さ、切られずに済む方法知りたいか?
B:もうネタばらしするの? もうちょっと引っ張ってやってもいいじゃんか。
C:ううーん、それも可哀想じゃない?
D:そうだ、本人が気づくのが一番大切なんだ。
だから俺のように黙って見守ってやればいいんだ。

Aは新入りに秘策を授けました。
「な、なんだよ、それは。え? なんだよ、それ。
俺のこと、全面否定じゃないか!」

そう、成長さえしなければ、薬味のネギとして、切られずに済んだのです。



時々思うんですが。
根の生えた薬味になる植物って。
成長早いですよね~。
折角伸びたのを切るのが何だか申し訳なくて。
切るのが忍びなくためらわれるのは、私だけでしょうか。

その薬味である植物。
だんだんと成長が遅くなるのって。
切られるのを理解しているのではなかろうか?
だから伸びるのを制限かけてしまうのではなかろうか?
と思ってしまうのは、私だけでしょうか。


(14)

成長期1

よっしゃ! 今日は5センチ伸びたぞ!
ひひひ、こん中じゃ、俺が一番の背高だ。
いいだろう。へへん。
何だお前。何そんな変な顔して俺を見てるんだよ、嫌な奴だな。
あ、そうか、お前伸びるのが遅いもんな。
そうか、そうか、俺様に嫉妬してるのか。
あがめたてるがいいさ。そうすりゃ、お前も少しは恩恵にあずかれるかもしれないぞ。
俺はお前らとは違って、出来がいいんだからな。

ふふん♪
って、あーーー。何だよ! いきなり伸びた5センチ以上、無くなった!
……、俺が一番チビになっちまった。
くっそー! みていろよ。

翌日。
今日はな、昨日よりもずっと伸びてやるからな!
お前らに、目に物見せてくれる。
んん? 何がそんなに面白いんだよ! こっち見んな!
って、あああ。…。
頑張って伸びたのに…。今日もかよ…。
お前、俺が辛い思いしているのに、そんなに面白いのかよ!

翌々日。
見ていろよ。
今日は切られたっていいくらいにもっと伸びてやるからな!

って、ぎゃーーーー!
俺の背丈が、俺の身長が!!!
1センチにもならないくらいになっちまったよ…。
って、お前、俺のことを見下すな!!

え?
俺よりも背が有るから仕方が無いって?
ムカつくーーー!

そんなに怒鳴るなって、これが怒鳴らずにいられるかって!
どうしたら切られずに済むか知っているって?

な、なんだよ、それは。
え? なんだよ、それ。
俺のこと、全面否定じゃないか!

(8)

あとがき

ようやくやれました。
短文。
修飾はほとんど入れずに書いてみたら、短くて済むわ~。

これ、ちょっとまとめると、文頭とか文末とかに使えそうな感じもするかも~。
なので、A面・B面というタイトルを付けてみました~。

お笑いには「タライ」でしょ!ということで始めた三話噺。
今回は「タライ」「木」「人」でした。

笑いへ持っていくぞ、とか考えてましたが。
頭に浮かんだのはこんなんで。
勢いで書いてみたら2つ出来上がりました。
時期ずれている、というのはナッシングです。

卒業式っていいですよね~。
って、自分の時は、思い出も感慨深さも無かったけれど。
他人の卒業式って、何かいいな~、って思います。

このネタひっぱって、「第二ボタン」と何か合わせて作ってみようかしらん?

B面 2

暗転……。

あたしは見事に木から落ちた。
それも。ターゲットの頭上に。
最悪だ。


それから先輩が救急車やら何やら、全部手配してくれたけれど。
あたしはその子の最初を汚してしまったという事実に愕然とし。
おちゃらけ先輩は、まーーーったく気にもしてなかったけれど。

あたしは気にした。すんごい気にしまくった。
だから、せめて、あたしがこの学校にいる間だけは。
そう思ったんだ。
それも迷惑だったかな……。

今思うと、迷惑をかけたからっていう罪悪感はあったけれど。
段々と逃げる後輩を追っかけるのは楽しくなってきて。
ははは。

……それ思うと、あたし。
絶対に、あのおちゃらけた先輩たちの後輩なんだと思う。
自己嫌悪。最悪最低だ。
でも、あの先輩たちだって、悪い人じゃなかった、んだよね?
そう、思い込もう。うん、そうだ。そうに違いない。
だって、孤立していたあたしを救ってくれたんだし。


あたしの後輩ちゃん、最初はマジ嫌がっていたけれど。
段々と楽しんできていたようにも思えてきてたのは、気のせいじゃないよね。
だから同じ部活に辞めずに入っていてくれたんだよね。

それとも、あたしが無理矢理誘ったから?
そもそも行き場が無かったとか!?
あーーー考えたらキリがない!!!

でも。そんなことを考えるのも。
こうやって後輩ちゃんのことを考えるのも。
それも多分今日が最後、か。
何だか感慨深いなぁ。
そうそうあの子、一人でやっていけるのかしら?
もう、最上級生だものね。大丈夫よね。

なにせこのあたしを呼び出しするだけの度胸は出来たんだから。

あたしは一人帰り道、後輩に呼び出しくらった道へと足を運んだ。

B面 1

ほ、本当に、こんなこと、やるんですか!!!
だって、ね。あたし、スカートですよ!!!
え? ジャージを穿かないあたしがいけないって!?
だって、こんなこと。本気でやるなんて思いもしないじゃないですか!

そう云いますけれど。
えぇ、そうです。そうでしたね。
あたしも体験しました。感動しました。確かにね。
だからと云って……。

あぁそうですか。あたしに拒否権は無しですか。
そうですか、わかりました。
何かあったら骨を拾ってくださいよ!
絶対ですからね!


はぁ。何の因果でこんな大きな木に登らないといけないんだか。
中身は用意してやった、って云われたってねぇ。
こんな中身の詰まった金タライ、持って登れって……。
あたしゃ、か弱い女子なんですよ!!!!

はぁ。これで、この道に、誰も通らなかったら。
あっ、そうよ、そうよ!
誰も通らなければいいのよ!
裏道だし、時間帯だって結構過ぎているし。

って思ったら、あーーー、来ちゃったよ。
あれ、新入生だよね?
親と一緒じゃないんだ。珍しい。

え? 今だ、やれ、って。
先輩、見てるから云えるんですよ!
結構、バランス取るの、怖いんですけれど!

金タライの中身を掴もうとした瞬間。
それは訪れた。

A面 2

「先輩!」
俺の真下を通る先輩に向かって、俺は投げつけた。
かき集めた桜の花びらと一緒に。小さいピンク色の飴も混ぜて。

俺の下で、痛い、痛い。
そう云いながらも、笑って俺を見上げる先輩がいる。

今はあの時と立場は逆転している。
俺は思うがまま、手にしたものを下に向かって投げつけた。

そういや、あん時は、タライが降ってきたんだよな…。悲鳴とともに。
まるでコントのように、俺の頭を直撃した。
タライと先輩が。
しかし、なんでタライなんだよ…。
俺みたいに紙袋に入れたほうが、よっぽど効率がいいっちゅうもんだろうが。

――そうさ、あの時は最悪と思っていた。
それも今日で終わりだ。
最初はうざったかったけれど。
今となれば、楽しかったのかもしれない。
何だかんだって、二年近く付きまとわれたというのか。
いや、それには語弊というものが混じっているかもしれない。
二年近く一緒に行動させられたというのか。
やっかいごとばっかり押し付けられたというのか…。

それも楽しい思い出になった。

「先輩! 卒業おめでとう!」

俺は木の上から先輩目がけ、精一杯に花びらと桜色の飴をかましてやったんだ。

A面 1

最初に出会ったんが、ここだったっけ。
眼下を見ながら、俺は感慨深くなりそうに……。

んなわきゃねーわ! なるわきゃねーんだよ!
ありゃ、最悪だ。最っ低の、出来事だったんだよ。
そもそも、アレを出会いと呼ぶべきか?
だいたい、アレは出遭いと呼ぶべき類のもんだろうよ。
そりゃそうだ。だって俺はこの場所で、怪我させられたんだからさ。

そのせいで一週間入院。何針縫ったっけか?
憧れの入学式やメインイベントの友達作り。一週間もしょっぱなから休みゃ。

はぁ……。

そう。俺は最初から。
人間関係作りに落ちこぼれてしまったんだ。
学校に出てきた時にゃ、すでに人間関係はあらかた出来上がっていた。
寂しい3年間を過ごすのか…。あん時は覚悟したもんだったっけ。

なのに、なんで、こうなったんだ?
俺の怪我を作った原因は、謝罪とばかりに、一方的に付きまとわってきたんだよ。
ありゃ、弁明でも何でもありゃしない。
ありゃ、俺を下僕にしようと虎視眈々と狙ってただけだ。
いや違うか。この場を通った奴なら誰でもよかったんだよ、絶対に。
そのせいで。
俺が入学式から一週間いなかったのに。影が薄くなるところか。
逆に悪目立ちして、違った意味から友達が出来なくなった…。
あんちくしょーーー!!!


ここは、いわくつきの場所だ。
そーだ。ここは人を魔に落とす地点に違いないんだ。
その場所に。今日はあえて俺はあいつを呼び出した。
ふっ、ふっ、ふっ。
そうだ。俺は今日、あいつに目に物見せてやると誓ったんだ。
さぁ、さっさと来やがるがいい。

さてどうなることやら

長く書くつもりは全くないのに、書いていると、どうしても長~~~くなってしまう。

長文ならそれでも飽きないんですけれど。
中途半端な短い文章は…。

ので。短文目指して書いていきますのでお付き合いくださいませ♪

ちょっと趣向を変えてみようかと。

天女と羽衣12

男にほだされた、わけでもなく。
脅迫が怖かった、わけでもなく。

羽衣が無いと何も出来ないのを知った姫は。
男にある条件を出すことで、腹をくくることにしました。

わらわが帰らなければ、その内に天からの迎えもやってくるだろう。
姫にはまだ、呑気なことを考えるゆとりが残っていたのです。
そうして男の嫁になることをしぶしぶ承諾することにしました。

『毎日美味しいものを食わせること』
それが男と夫婦になるための姫の譲歩でした。
しかし、それは恐怖の始まりでもありました……。

「食うためには働かにゃならんからな」
ほれ、と云って姫が最初に渡されたのは。
大きなザルでした。
「な、何よ、これは」
姫はぽかんと口を開けたまま、突っ立っているしか出来ません。

「何しとる。畑から一番の食べごろを取ってこい!」
男に畑へ押しやられます。
収穫などしたこともない姫は、当然ながら何も出来ません。

「洗濯は女の仕事だ」「ほれ、肩をもめ」「薪を炊くこともできんのか!?」
しかし男は平気で姫に暴言を吐き、コキ使います。

それから数日後。
ようやく人間界の規則に慣れてきた姫とはいえ。
ぜーぜー、と、息つく暇もないほど、姫は毎日男に顎で使われました。
「な、なんでわらわがこんなことをせねばならぬのじゃ!!」
誰も居ない畑に向かい怒鳴ったところで。
「かぁーーーぁ……」烏しか返事を寄越しません。
「む、虚しい。天に居た頃は……」 花よ蝶よとちやほやされたのに……。

昔を懐かしんだところで、どうしょうもありません。
畑に両手両ひざをつき、泥まみれになった姫には、
当時の煌びやかさは全くありませんでした。

もしかしたら、一生をここで終わせる羽目になるのか?
ようやく姫は本気で恐怖に打ち震えることになったのです。

お、男のいない時に、どうにかして羽衣を取り戻さねば。

羽衣が売られてしまったということを考えないところが姫の素直なところです。

姫は、男が家を留守にするときを見計らい、狭い家の中を探することにしました。
けれど、どんなに探しても羽衣は見つかりません。
姫が羽衣に声をかけても、返事すらしません。

はぁぁぁ。もう、帰る手立ては無いという事なのか…。
がっくりと肩を落とすと、姫はもう何をする気力も残ってませんでした。

天界に帰れなくなった。
それからの姫は、いつも天界の事が頭を占めるようになりました。
他のことを考える余裕もありません。
あれだけ執着していた食べ物ですら、見向きもしなくなりました。

すると姫はどんどんと痩せていき、いつの間にやら本来の美しさを取り戻しつつありました。
しかし。
男にしてみれば、あのぽっちゃりした愛らしい姿を気に入っていたのです。
段々と痩せ細っていく姫に魅力は感じられなくなりました。


ことり。
男は姫が寝静まった後。
天井の一角を開け、丁寧にしまい込んだ羽衣に声を掛けます。

「これこれ、羽衣。あの女はずっとまるまるとした体形だと云ったではないか。
これでは話しが違う」
すっかり寝ていた羽衣は、
「食べなきゃ太らないでしょ~。食べさせてあげたの?」とのんきな声をあげます。
「あぁ、たらふく食わせたさ」
「姫は上流階級の生き物なんだから、それ以外のことをさせたら駄目なんだよ」
「だったら、ただ飯食らいというやつなのか?!」
男はその言葉にショックを受け、そのまま天井を閉めました。
羽衣の耳に何の音が入らなくなったため、すやすやと再び寝落ちしました。

それから数日後。
ふぁぁぁ。
すっかり休息を取り、目を覚ました羽衣は。
天井から姫の具合を観察することにしました。

あの頃とは違い、すっかり日焼けもし、肌の具合もお世辞にもよいとはいえない姫がそこにいました。
「あぁぁ。いくら元の姿に戻すためとはいえ。こりゃひどい」
羽衣は自分で立てた計画よりも、その結果が酷くなっていたことに初めて気づきました。

「天界一と褒められていた美はどこへやら。
姫へのお仕置きもあれくらいにしておかないと」


羽衣はそれでも姫が、自分が簡単に運べるくらいに痩せていることに安堵しました。
「手入れさえすれば、体は元通りになるでしょ。やれやれ。世話の焼ける姫だ」

羽衣は隠されていた天井から降りてくると姫に向かい云いました。
「もう地上は満足ですか?」
姫は怒鳴る気力すら失い、放心状態でいます。

ありゃ、こりゃ、お灸が強すぎたかな……。
羽衣は反省しつつ、姫の身をくるむと。
そのまま天界へと戻っていきました。

それからの姫は、二度と下界に降りてくることもなく。
我が侭を云う事もなく、すっかりおとなしくなり、
姉姫たちと同じように、天界の男性と結婚し、幸せに暮したとさ。

天女と羽衣11

こんなに長くなるつもりはなかったのになぁ…。
と、少し後悔しつつ。
もう少しお付き合いくださいませ。




「お、おい、そこな女子。この衣はお前のか?」

姫が水浴みを中断し、そろりそろりと振り返ると。
人間の男が羽衣を手に、突っ立っているのが目に入りました。

な、なにが!? 起きた!?
突然の出来事に、姫はその場に止まってしまいました。

男と姫の目が合って数秒……。

気丈な姫はすぐ我に返ります。
見張りをしているはずの羽衣を怒鳴りつけようとしましたが、
男の手中で普通の布のようにひらひらと風になびかれているだけ。
姫には何らの合図すら寄越してきません。

ちっ! 何やってんのよ、あの鈍くさい羽衣めが!
見張りの意味も成さないでさっさと捕まりやがって!
ひごりごちるが、姫一人ではどうしょうもありません。
どうにかして羽衣を取り戻したい姫でしたが、今は一糸纏わぬ姿です。
羽衣がいなければ身動きすら取れません。
姫は仕方なしに男に向かって声をかけました。

「そうです、それはワタクシの羽衣です。どうかお返しください。
その木に括って、その場から立ち去ってください」
何でこんな下賎な者に、この高貴なわらわが頼みをしないとならないのかしら!!!
内心怒りに狂う姫でしたが、表面上は穏やかに告げました。

「い、いやじゃ」
な!?
男が断ると想像もしなかった姫は、絶句します。
「こ、これがほしけりゃ、俺の嫁になれ!!」
羽衣を握りしめた男は、姫に顔を向けることなく、全身が真っ赤になりながらも告白しました。
どんだけずうずうしいの! だから下賎の者は!
わらわの持ち物を盗んだうえ、嫁になれですって!?
馬鹿にしている!
怒りに身を任せ、口から罵詈雑言が出かけましたが……。

そこでようやく姫は気づいたのです。

羽衣がいてこそ好き勝手な行動が取れていたことに。
万一、ここで男を怒らせたとしたらどうなるかということに。

それが解った途端、姫は全身から血の気が引くのを感じとりました。
今や姫は一人で何をすることも出来ずにいるのです。


姫は一瞬恐怖に駆られましたが、以前羽衣と話していたことを思い出しました。
地上で少し暮らすのも、そう悪いことではあるまいよ。
地上の食べ物はうまいからな。
そう単純に考えながらも、姫は気丈に男に告げます。

「羽衣を返しなさい」
「いいや、これは返さねぇ」
男は羽衣にそそのかされたのもあってか、真剣そのものです。
「もしこの衣を返してほしくば、俺の嫁っ子になれ!」
顔を真っ赤にしながらも、再度男は精一杯の告白、いえ、脅迫をしました。

天女と羽衣10

男がどんなに振りほどこうとしても、背中のそれは離れません。
男が混乱している間も、その背中からは声が聞こえてきます。

「ひぇぇぇ。お許しくだされ!!」
男は恐怖におののき、許しの言葉しか発せられません。

これでは話しにすらならん。
男のひ弱さにあきれ果てた羽衣は、ようやく背中から離れることにしました。

「これこれ、そこなおまえ」
男の目の前には、ふわりと浮かぶ綺麗な布きれが一枚あるだけです。
それを見た瞬間。
そうか、これは夢なんだ。
そう思った男は恐怖を忘れ、綺麗な布に興味本位で手を出そうとしました。


「おまえ、あそこにおる女は好みか?」
けれど布きれが喋ったものだから、さぁ大変。

ゆ、夢ではないのか?!
男はびっくりしてその場で尻もちをついてしまいました。

「ぬ、布きれが、喋った…」
男には、もう一体何が起きているのかすらわかりません。
口を開けるが、それ以上の声は出ず。

「布きれとは無礼な!!」
羽衣は一瞬怒りをあらわにしましたが、即座に気を取り直します。

「ほれ、どうだ。あの女はおまえの好みなのか?」
男は緊張で声は出せないが、正直に首を上下にぶんぶんと勢いよく振り続けます。

「そうか、よい、よい、わかった」
しめしめ、この男は僕を天の使いかなにかと勘違いしているのかもしれないぞ。
このさい、何でもいいや。
使えるものは使って、姫には山ほど深く反省をしてもらいましょう。
ふふふ♪

羽衣は内心、面白くなってくると、尚も一層芝居がかった口調で男に語りかけます。
「おまえがあの女を手にする方法がある。そう申したらどうする?」
男はふわりと漂う布に慣れたのか、少なからずの言葉を発します。

「え? だって、あれは神様の……」
それ以上の言葉は、天女を穢すように思え、男は何も云えませんでした。

「嘘はいかん。本音をいいたまえ」

男はおずおずとしながらも、
「へい、あんな上玉の女が嫁っ子きてくれりゃ、嬉しいですわ」
云われるまま、正直に答えました。

「そうか。では、秘策を授けよう」

羽衣は、自分が穢れるのをあれだけ嫌がっていたのに。
地上の人間の手にすっぽりと収まりました。
ひっ! 
男は勝手に自分の手元に入り込んできた布を気味悪く思いましたが、外すことが出来ません。
そんなことはどうでもいいと云わんばかりに羽衣は続けます。

「ワシを高々にあげ、あの女に向かって云うのじゃ。
『この羽衣を返して欲しくば、俺の嫁になれ!』と。
それであの天女はおまえのものだ」

ごくり。
男がつばを飲み込む音が、羽衣にはっきり聞こえました。
こりゃ脈ありだな。ふふふ。

「そうそう。忘れてならぬのが、このワシの扱いじゃ」
羽衣がそう云うと、男は手にしたそれを知らずに力強く握りしめておりました。
「いたいわ! もう少し丁寧に扱わんか!」
「あぁ、すまん」
しょげかえりながらも男は羽衣から手を離しません。
こりゃいい人間を見つけたもんだ。
羽衣はほくそ笑みながらも、もったいぶった口調で云います。

「お前の家の一番高く、綺麗な箱の中に納めて仕舞うとよい。
決して、あの女の手が届かない場所に隠しておくのだぞ。
それであの女はおまえのものになる。さぁ云ってみるのだ」
「はぁ」
半信半疑のまま、男は羽衣に云われるまま、大声で姫に向かい云い放ちました。

天女と羽衣9

「今日は道を外れてツイてないと思ったが、そうでもなかった」
にやにやしながら、男は木の影から姫の水浴みを覗いています。
羽衣が上から見ているとは思いもよらない男は、平然と独り言をつぶやきます。
「あぁ、あのぽっちゃり感。よいなぁ」
うっとりとしながら、男は遠目にいる姫を眺めては、溜息をつきます。
「村の女連中に、ああもふくよかな女はいない。
きっとお金持ちの娘っこなんだろうな。
あんな女を嫁にしたら、幸せだろうなぁ」
ぽーっと頭から蒸気をあげんばかりのその男の言葉に、羽衣は閃きました。

そうか、そうか、それなら丁度いいかもしれない!

羽衣は男が姫を好いている恋心を利用してやろうと思ったのです。

そうとなれば即実行しないと。姫に気付かれたら厄介だしな。
羽衣は考えるやいなや、小声で男に向かい声を掛けます。

「もし、もし。そこな、おまえ」
男は始めきょろきょろと左右を向きましたが、風の音だろうと気もせず、そのままじっと姫に目を向けます。

「これこれ。おまえの上じゃ」
羽衣は少し語気を強め、男に話しかけます。
え? とばかり、男がそろーりと上を見ると、誰もいません。
「な、なんだ。驚かすなよ…」
独りごちたものの、男は段々と恐怖で足がすくんできました。

覗き見していたのがばれたのか? 
もしかすると、この女は天の使いのものか?
だから、こんなにふくよかなのか?
それが神さまにばれて……!
お叱りの言葉が降ってきたのか?!
悪いことを考えるともう止まりません。
がくがく、ぶるぶる。
手足は震え、男はその場から動けなくなってしまいました。

そんなに恐縮されると羽衣の計画は狂ってしまいます。
羽衣はどうにか男をなだめすかそうと声をかけます。
「そう怖がるな。ワシはあの天女の使いのものじゃ」
羽衣は落ち付き払った声で話しかけます。
しかし見えもしない存在に話しかけられた男はさらに動揺するばかりです。

「え? へ? て、天女だって! わ、悪気は無かったんだよ。ゆるしてけれ」
とうとう男はその場に頭を抱え込んでしまいました。

はぁ、仕方の無い。そう思った羽衣は、
するりと木から離れ、男の元にふわりふわりと落ちてきました。

ひっ! 見えない背中に何かが乗っかってきた!
そう思った男は必死になって、背中に乗ったものを振りほどこうとしました。

天女と羽衣8

男の息遣いはその内に音となり、
その音は小さいながらも、段々と人が話す声になっていくのが羽衣にはわかります。

えええ?!
びっくりした羽衣は、しばし呆然とその男を眺めるしか出来ませんでした。

……!!!

初めての体験に、羽衣は声すら上げることが出来ません。

こ、こういう時の対処の仕方は…。

パニックを起こしつつも羽衣は、
人間と遭遇した時の、天界手引き書の内容を思い出そうとしていました。

けれども何も思い浮かびません。
羽衣は使命とばかり、とりあえず男を観察しました。
と云えば体裁はよいのですが、実際は頭が混乱して単に動けないでいたのです。

羽衣が目にした男の視線の先には、姫がいます。
そうです。男は木の陰から姫を窺っていたのです。


ひえーーー、どうしよう!!!

見張りをしていなければならなかった羽衣が、
それを見落としていたことなど職務怠慢としか云いようがありません!
姫が下界の者に天女としての姿を見られたとしたら。

どんなに云い訳をしたところで時すでに遅し。
今更、羽衣が姫にどのような注意を喚起したところで、どうしょうもありません。

いいえ。それは少し違いました。
もし姫があそこまでの目方が無かったら。

羽衣は一目散に姫にかけより、天上目指し帰ったことでしょう。
けれども、今の姫は。

お世辞にも今の姫を軽々持ちあげられる体力が羽衣にはありません。
結局のところ、天界の指南書があったとしても。
今の羽衣には、この難局を逃れることは叶いませんでした。

天女と羽衣7

いつもの通り、姫と羽衣は里へ下り。
いつもの通り、姫だけが美味しい物をたらふく食し。
いつもの通り、姫は長時間水浴みをし。
いつもの通り、羽衣が姫の水浴みを遠目に、木に括られています。

けれど、いつもとは違い。
羽衣はふと何かの気配を感じ取っていました。

どうせ獣か何かだろう。
野生の生き物であれば高位の天女を狙うことは絶対にしない。杞憂だ。
羽衣はつまらなそうに考え、奇妙な気配を気にせずいました。

これから先、どうしようかなぁ。
羽衣は姫の方を眺めながら、ぼんやりと考えていました。

がさがさ。がさがさ。
すると急に羽衣の思考を邪魔する雑音がしてきます。

五月蠅いなぁ、風でも出てきたのかな…。

羽衣自身は一ミリたりとも風に揺られもしていません。

そうです、そんな単純なことに気づかないくらいに、
羽衣の思考能力はかなーり低下してりました。

自分のことすら気づかず、特には何も考えず、その場にいた羽衣ですが。
がさがさと五月蠅かった音はどんどんと大きくなり。
暫くするとその音は、変な息遣いに変わってきました。
それも、羽衣が括られている木のすぐ真下からです。

んん?
羽衣はさすがに不信に思い、自分の下を見やると……。

そこには人間の男がいたのです!!

天女と羽衣6

姫は幼少時から離れで過ごしているおかげか、
今もって、姫の変化を注視する輩はおりませんでした。
ライバルの姫たちを除いては…。

だからといって安心は出来ません。
用もなく地上に降りるなどもってのほか。
この所業がばれたら姫はどんな処罰を受けるかわかったものではありません。

それでも姫は毎日のように地上に訪れ、人の姿に変化をし、
人里へ下り、美味しいものをたらふく口にしていたのです。

今日も今日とて、姫は羽衣をまとい、地上に降りていきます。
羽衣にしてみたら、重力の関係上、降りるのはたやすいと思ってはいたのですが。
それも姫の体型がここまで変わる前の話しです。
逆に落下するスピードがつくものだから、今ではかえって羽衣の負担になっていました。

「美味しいものばっかり食べているから、そんなに太っちゃったんですよ。
運ぶ私に身にもなってくださいよ」
ねーねーー。
羽衣は、自分の主人である姫に文句を云います。
けれども姫はどこ吹く風で、何も聞き入れてはくれません。

云っても詮無いことと思いながら、姫の食欲を減退させたいと望む羽衣は続けます。
けれど、姫は一向に意に介しません。

それ所か、「姉様たちのように、私は結婚もしないし。
なによりも下界には美味しいものが沢山あるし。
なんで楽しみを放置して我慢しないといけないの?」
羽衣にいけしゃーしゃーと返してきます。
「だって、決まり事ですから。
それにその。その内、天上界に帰れなくなりますよ……」


姫はその言葉に目を一瞬大きく見開き、しばし考えました。
そうね、こんな美味しいものを毎日食せるのであれば、
天界に帰れないのもいいかもしれないわね。
にやりと、本気ともつかない言葉を羽衣に投げかけました。

姉上様たちはあんなに素敵なのに。
どうして姫はこんなに狂っちゃったんだろう。
僕の監督責任不行き届きなのかなぁ…。
はぁぁぁ。
羽衣は姫ではなく、段々と自分を責めるようになってきました。

天女と羽衣5

ぜーぜー、はーはー。
息絶え絶えに、羽衣は姫から離れました。
あーーー、もーー、しんど…。
も、一歩たりとも動けねー。


ここは天界の外れにある、姫が住まわす小さな庵の庭でした。

か、帰ってこれた。今日も無事に。
うるっと涙目になりながら、羽衣は戻れたことに安堵しました。

い、いい加減、この状況を打破しないと、我が身がやばい…。
姫に目を向け、羽衣は考えます。
しかし、今の姫を思うと。
簡単に改善出来るとも思えません。


ライバルの姫たちにより、地上に魅せられた姫。
地上行きは秘密の園。
そんなスパイスも手伝ってか。
世間知らずの姫は、すっかり地上の虜になっていたのです。
その姫が地上で一番はまってしまったのが、食べ物でした。

天界では見ない食べ物ばかり。
最初は拒否していた姫も、ライバル姫たちに勧められるまま食すと。
飛び上がらんほどの美味に、すっかりと舞ってしまいました。
それは刺激に溢れ、若い姫にはその魅力に抗うことができなかったのです。

霞を食す天界人。
その霞はほどよい味はありましたが、地上のものと比べると、刺激が全く違います。
世慣れしてない姫が飛びつくのも当然といえば当然なこと。
ですが、天界人が地上のものを食べるとなると困ったことが起こります。
それは体に負担をかけるだけではなく、精神にも異常を段々ときたすのです。

実際、あれほど素直だったこの姫は。
地上に降り、一口食べ、二口食べ、を繰り返すうち。
体型は変わり、言葉使いもまるで別人のようになってしまったのです。


そんな姫をどうやって変えたらいいものか。
羽衣は、満足してその場で寝転がっている姫を見ながら考えました。

天女と羽衣4

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天女と羽衣3

「そんな何時間も水浴みして、肌を痛めつけて。
ばれたら大目玉喰らうのわかってて、それでも地上に来て。
いいことなんてありゃしないじゃないですか!!」

けれども姫は意に介しません。

「地上なんて来なきゃいいじゃないですか!」
だいったい、姫が地上に来ているのだって、バレバレだと思うんだけどさ~。
どうせライバルの姫のせいで箝口令が敷かれてちゃってるんだろうけどさ!?
羽衣はそうと思っていても、それは口には出さず苦情を云い続けます。

「人間が来る前に、さっさと天上界に帰りましょうよ!!!」
それまで黙っていた姫は、きっぱりした口調で云い放ちました。

「おまえ。そんな軽口叩くんだったら、
人間が来ないようにきちんと見張っておきなさい!」

ぐっ……。
凛とした声色は、かつての姫そのもの。
それだけは何一つ変わりません。
そんな姫に強気で云われると。
――立場の弱い羽衣でした。

羽衣の心中など察しもしない姫は、平気で木の方角へ向かい怒鳴り声を発します。
一呼吸つくと、体のパーツのどこにも地上の穢れが無いかと確認しながら、
念入りに姫は水で体を洗い続けました。


こうなったら姫は梃子でも動きません。
諦めた羽衣は、「はいはい」と適当に返事をし、姫の云いつけ通り
辺りを見回すことにしました。

けれど、この場所には野生動物以外は人っ子一人見当たりません。
辺りを警戒することすら無駄なことでした。

ここは人里離れた湖であり、人が訪れるなど稀な土地なのです。
だからこそ、姫はここを天界と地上の中継点として
安全な場所として使用するのを選んだのです。


ってかさ。俺、見張ったところで意味あんの? 
せいぜい声を出すくらいだよ?
地上人に見つかったらどうなるかって、想像もつきゃしないけどさ。
俺がそいつをどっかに捨ててくるとか?
うわ、嫌だ。穢れになど触りたくもない……。
自分で考えてたことに、多大な衝撃を受けた羽衣は、
もうそれ以上何を考えるのを止めました。

もう帰りましょうよ、と口に出しかけた時、

「これでよし!」
納得した姫の水浴みが終わりを告げました。

天女と羽衣2

あぁ、本当に勿体ない!
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
頭はアレでも、
天上界では1,2を争うくらいにスタイルがよくて綺麗だったのに!!!
それが僕の唯一の自慢だったのにぃぃぃぃ!!
今では仲間の羽衣にすら、冷たい目で見られているよ。
声すらかけてもらえないよ!!!
酷いよ、僕の就職先!!!!


すらりとした四肢・艶めかしい全身の曲線美、色は透けるように真っ白で、
磁器のように滑らか。
羽衣のように髪はふんわりと綺麗な輪をつくり、艶やかな漆黒の髪。
――はぁ。それが今じゃ。
ちらりと湖の方向を見て、その声は続かなくなる。

過去の栄光の記憶を馳せながら、
木の方角から湖を眺めていた声の主である羽衣は、
地団太踏めない代わりに風に乗り、
体を大きく左右に布を振って物云わずの抗議をしておりました。

バタバタバタ……。多くの風になびかれる羽衣の姿は、
声を出す抗議よりも大音が辺り一面に響き、
姫に対する嫌味としては効果的でもありました。

風にたなびかれながら、羽衣は怒りを強くしていきます。
憎いのは地上だ!
地上なんかがあるから。
そもそもそそのかした奴らが悪いんだよ!!!

姫は馬鹿だから仕方ないからさー。
水浴みしている姫のことは置いておいていいんだけど。
馬鹿なのになんであんなに頑固なのさーーーーー!!!

これもあれも、姫に嫉妬した天界の奴らが姫に甘言するからいけないんだ!!!
それは悪魔の囁きっていうもんなんだって、何でわかりゃしないんだよーーー!!!
馬鹿過ぎ、ちょろすぎだろうよ、
もっと世間というのを知らなゃ、この姫はーーーー!!!

責任の所在を地上や妬みから姫を陥れた天界の輩のことを考えると。
羽衣の怒りは収まりません。
すでに怒りで声すら発するのが出来ない羽衣は、
バタバタバタ……と風に乗り、抗議しまくりました。


そうして水浴みを終えない姫に向かって云い放ちます。

天女と羽衣1

喬木に一枚の布がくくりつけられ、
はたはたと風に乗ってたなびいていました。

その木から、
「いい加減、帰りましょうよ~」
そんな情けない声が辺り一面に響きます。

けれど声を掛けられた相手は、何も返事をいたしません。
その声に、耳を傾けている暇などなかったからです。

木の方向から声が再度発せられます。
けれど、返事は何もありませんでした。

これで何十回、独り言のような言葉を出しているのだろう。
声の主が疑問に思うのはすっかり諦めつつも、
云わずにはいられませんでした。

「ね~、ま~だ、ですか~」
適当な言葉を口にし、声に出して張り上げます。

こっから退散出来るなら、返事なんかいらないから。
早く、か・え・り・た・い~!!!!!


それだけを考え、ぐちぐちと苦情を提言しておりました。

――そんなやり取りが何時間続いたのでしょうか。

とうとう声の主がブチ切れました。

「毎回毎回、いったい何時間やってりゃ気が済むんですか!!!
んなのやったって、どうせ意味無いですから~!~!~!」
から~…、から~~…、から~~~…。

バサバサバサ!

悲痛な叫びは辺り一面にこだまし、寝ていた水鳥が驚いて逃げるほどでした。

そんな声の主にようやく耳を口を傾ける気になったのか、
「駄目よ!」
ぴしり、と一言。
返事とは云えない応えがもたらされます。

「地上に行ったなんてばれたら、大目玉喰らっちゃうもの!」

そこでようやく顔を木に向け話し出したのは、一人の元美人女性でした。

女性は必死に湖の水を使い、一心不乱に体をゴシゴシと洗っています。
すでに水浴みを通り越し、垢すり状態になっていたため、
磁器のように滑らかで白い肌は、すっっっかり、
おさるの顔のように真っ赤になっておりました。

日常に潜む恐怖(なくも無いよね) 2


「俺がやりました!」
どうだ、見ろ!
俺は男らしく、自分がやったことを認めることが出来る男なんだ!

どこか誇らしくなりながら、
男はぴしりと両手を両脇に付け、頭を直角に下げています。

次はいつものように決まりきっている。
ここでこいつらも同じように、俺を笑って迎え入れるんだ。
そうか偉いな。って。

けれどいつまで経っても賛美の声はかかりません。
男は段々と、じれてきました。

さぁ、どうした。早く俺を認めろ!
それとも俺を褒め称える言葉でも探しているのか?
感動して声も出ないのか?
まったく、語彙の少ない連中だ。
こういう頭の悪い連中というのは困るな。
俺は寛大だから待ってやるけどな。

――しっかし、いつまで待たせるんだ!?
こいつらの次の言葉が無いと、
俺はいつまでたっても頭をあげられないじゃないか!
いい加減、頭に血が上ってしまう!


沈黙が暫く続き、それを破ったのは、
「わぁぁぁぁぁ!!!」
泣き叫ぶような、女性の大声でした。

「な、な、何が、『俺がやりました!』だ!?
馬鹿にしているのか!?
お前が自分の仕出かした罪を認めるなら、娘を今すぐ生き返らせろ!!!」

男性はかすれるような悲痛な声を上げ、
訪ねてきた男を一方的に攻めたてます。


え?
一体何が起きているんだ?

いきなりの罵声に、男は困惑していました。
男が顔を上げると。
そこにあったのは、怒り狂った男女の姿でした。

な、なんだ? こいつらは……。
普通なら、ここでみんな笑って俺を向かいいれる場面なんだぞ?
俺様がやったって、認めてやってんだぞ?
ここは、こいつらが俺に向かって、有難く礼を云う場面だろ?

「包丁持ってこい! 俺がコイツを殺してやる!」
黙って男女を見ていた男にしびれを切らした男性は叫びました。

ひぃぃぃ!

凄まじい男性の形相に驚いた男は、一目散に逃げ帰ります。
家に戻り、部屋に入り、布団をかぶり。
一人がたがたと震えるしか出来ません。

「な、何が、起きた? 俺が、何をしたっていうんだ?」

理解しがたいことが起き、男は狂乱しました。

俺様がきちんと男らしく、やった、と云ったというのに。
何だあの態度は。

段々と男の心に黒いものが影を落とし、
先程までの恐怖は次第に怒りへと変貌していきます。

「そうだよ。俺はきちんと認めたんだ。俺に非は何もない。
非があるならあいつらのほうだ!」
そうだ。そうだ!

男は一人、自分を納得させるための、
自己肯定する言葉を沢山並べてきます。

壊したからきちんと『俺がやりました!』って認めてやって、
動かなくなったモノの持ち主に、きちんと云いに行ったんだ。
それなのに、なんだ、あの対応は!
あぁそうだ。
そいつらが人としてなっちゃいないんだ。

そして男は思い出したように、自分を納得させました。

「あぁそうか! あいつらが狂ってやがるんだ」

そうか、そうか。
だったら粛清しなきゃな。
俺の言葉を受け入れなかった奴らがどうなるか、思い知ればいいんだ。
周りも俺のことを納得してくれるだろう。
だって、俺が正しいのだから。

そうしてまた、壊した女と同じようにそいつらが壊れたら。
俺がやったって認めれば、普通の人間なら、
「逃げずに偉かったわ」
って、微笑み、俺を褒め称え、笑顔を見せてくれるはずなんだから!

日常に潜む恐怖(なくも無いよね) 1

〈三つ子の魂、百までも…〉

ガッシャーン!

乾いた音が、辺り一面に鳴り響きました。


「あ、わ。ど、どうしよう……」
この音で、誰かがやってきちゃう!
に、逃げなきゃ!

落としたものを見るよりも、
その音に気付いた誰かが来るのではないかという現実に、
その子はただただ左右に顔を振り、おろおろとするばかりでした。

その子が物心ついてから起こした、
初めての失敗であり、初めて感じる怖れでした。

自分の仕出かした事の大きさを無意識に感じ取っていたため、
その子は立ち尽くしたまま、結局は動くことが出来ずにいます。


目前に散らばるのは、花の絵柄をした花瓶の残骸。
乱雑に摘み取られたような、見るも無残な散り様の花の絵柄が、
いくつも散乱しています。
それは見る者の目を奪うような、怪しく綺麗な光景となり、広がっていました。


わざとではなくて壊してしまった。
お母さんが大切にしていた花瓶。
どうしよう。どうしよう! どうしよう!!

その子の足はすくんで動きません。


「何? 今の音は……」
音に気付いたお母さんは、すぐにやってきます。
その子は覚悟をして、身をすくめながらも必死に云いました。

「僕がやりました!」
目に涙をいっぱい溜めながら、お母さんの方を向いて、頭を下げます。
その子の目には、お母さんのスリッパしか入りません。
ただただ顔を上げるのが怖かったのです。

立ち尽くしたまま、
お母さんの足は、暫くその場から動きませんでした。

どうしよう。
その子が思った時、お母さんは一言つぶやきました。

「そう……。壊しちゃったのね……」

その声はひどく暗く、重く、その子を落ち込ませます。
その子は目を固くつむり、次に出る言葉を我慢強く待っていました。

「でも、きちんと自分のしたことを認めたのですものね」
次の瞬間、お母さんはその子の頭を優しく撫で、
「逃げずに偉かったわ」
穏やかな声で語りかけました。

その言葉に、その子はようやく顔を上げることが出来ました。

その子の目には、ほころぶように咲いたお母さんの笑顔が入ってきます。
そうしてその子は考えました。

逃げないで自分がやったと認めれば、こんなに素敵な笑顔が見えるんだ。
と。


その子の考え方は、ある時までは正しくありました。
小学校でも、中学校でも、高校でも、大学でも。
その子が頭を下げると、みんなにっこりと笑ってくれたのです。

しかしある時の事柄をきっかけに、それが違っているのが発覚します。
ですが、その子にとっては、何が間違っているのかすら、
理解出来なかったのです。

白雪姫の母 5

それから暫く後。
王妃は不思議な現象を見ることになります。

「ん? やけに綺麗に見えるものだ」
目をこすっても、周りの光景が美しく目に飛び込んできます。
建物内部も、下女たちも。
王妃にとっては、なぜか全てが輝いて見えてきたのです。


下女の掃除の仕方が変わったのだろうか?
いや、そんなことで変わった綺麗さではない。
何と云えばよいのだろうか。
例えるならば、空気が美しくなっている、そんな感じなのだ。
……私の目がおかしくなったのだろうか?
しかし。
ううーん。


部屋に王妃付きの世話役の侍女がくると、王妃はそれとなく聞いてみました。

「最近、やけに色々なものが綺麗に見えるのだが」
侍女を伺うように、王妃は水を向けます。
「それは気のせいでございましょう」
けれども侍女は速攻、そっけなく、バッサリと返します。

「でもな?」
王妃は侍女の方を、視線を泳がせながら見ています。
「はい?」
侍女は王妃を真正面から見つめ返します。

あー、でもなく、うー、でもなく。
小さく声を発し、もじもじとしている王妃に対し、
侍女は段々と苛立ってきました。

わかりました。そう侍女は溜息を一つ、はぁ、とつき一言。

「下女たちの間で褒め合いっこが流行っております。そのせいじゃないですか?」

王妃にそう告げました。
侍女はその場で、その話しを終わらせるつもりだったのです。
しかし。
泳がせていた王妃の目は、その言葉を聞いた瞬間。
侍女をロックオン!
視線の先にいる侍女から目を離しませんでした。

「そ、それは、いったい、なんじゃ? それは」
興味のないそぶりをしながらも、そわそわ、もじもじ。
王妃の耳はダンボになっています。
そんな王妃を、侍女は冷めた目で見つめながら、
「褒めると細胞が若くなる。そう云っているのですよ」
素っ気なく返します。

「ほ、ほう……」
王妃の耳は、侍女の言葉にすぐさま反応しました。

以前耳にした、あの下世話な会話は本当だったのか?!
王妃の心の中が、どうしてだかざわざわと騒ぎ始めます。
しかし。
「そ、それが、何なのか?」

王妃は真相を問いただしたくても、プライドが邪魔して出来ません。
そんな自分にイラつきながらも王妃は、
「わらわの目にする景色が綺麗に見えるのと、何か関係があるのか?」
ついつい、突っぱねた云い方をしてしまいます。

「いや、だから」
侍女は云い淀みます。

ここには王妃とその侍女しかいません。
けれども侍女は誰かに聞かれるのが気恥ずかしく、声を一層ひそめました。

「仲間内で褒め合うことをするのは恥ずかしい子等もいるみたいでして」
「ほう」王妃は思わず、ずいと身を乗り出します。
近いです…、と王妃を押し戻しながら侍女は話しを続けます。

「特に若い下女はプライドもありますから」
「ほう?」

「物を擬人化して褒めているみたいですよ。自分を。その効果か知りませんが。
物まで褒められると嬉しくなって、綺麗になるんじゃないですか?」
「ほう!」
王妃の凝視に耐えられず、侍女はイランことまで話してしまいました。

「特に鏡に話しかけるのが効果的だとかで……。
鏡に映る自分に向かって褒めると、それだけで本人も嬉しくなるそうです。
鏡は鏡で、自分が褒められていると勘違いし、ぴかぴかになり、
その鏡が綺麗になった表面に光を吸収・反射し、
周りが綺麗に見えるのではないんでしょうか」

ふと我に返ると。
侍女は自分が恥ずかしいことを云ってしまったことに後悔します。

侍女がそんなことを気にしたとはつゆ知らず、
王妃は侍女のその言葉に、一人フムフムと感心して考え込んでいました。

その隙に。
侍女は顔を真っ赤に染め上げながら、さっさと退出してしまいました。

けれども王妃は侍女が勝手に出て行ったことなど、
まるで気にすることもありませんでした。
すでに王妃の心の中は、鏡で一杯だったからです。


その後。
万物に命を吹き込む魔法を手に入れた王妃はすぐさま。
自らの鏡に魔法をかけましたとさ。


その効果といえば…?

白雪姫の母 4

そんな会話を下女と同じよう、興味深げに聞いていた王妃もまた。
話題の中心である階下の下女をじっと見つめました。

ふむ。確かに、その下女の肌はつやつやしているように見える。
もっとも、その下女が以前どんなだったか知らないのだが。
……そうか、褒められることで綺麗になるのか。
生娘の血の風呂に入るよりも、なんと簡単なことだろう!
これはよいことを聞いた。

王妃がそう思ったのも束の間。
王妃はその考えに待ったをかけてしまいました。

いや、駄目だ。
わらわには、生娘の血の風呂に入るよりも難題やもしれぬ。

――なぜならば。
王妃には海よりも深淵な、山よりも長高な、
大きな、大っきな、プライドがあったからです。
下女に「わらわを褒め称えよ」とは、どうにか命令は出来ます。
しかし、下女に。
「白雪よりも若く、美人で立派な王妃だと、毎日ほめたたえよ!」
そう命令するのは、どうにも気恥ずかしかったのです。

いくら褒められれば若く美しくなるとはいえ。
ここには下女以外、誰も自然にわらわのことを、
昔のように褒め称えてくれる人はいないのだ……。
それでも無理難題を押し付けて下女に頼み、云わせたとして。
――効果があればよいが、効果がなければ。
単なる笑いものでしかならぬ。
(イタイ女と思われるのは……)

ぶるぶると首を振ると、王妃は「その話はこの場限りで終わりじゃ」
そう自分に云い聞かせました。

白雪姫の母 3

そんな鬱々とした日々を過ごしていた王妃の耳に、ある日。
下女たちの楽しそうな声が飛び込んできました。

ピーチクパーチクと、ガラガラ声の鳥じゃあるまいし、耳障りだこと!
王妃は階下の者たちの声に段々と不機嫌になっていきます。

一人での生活に慣れてきた王妃にとって、明るい若い娘たちの話し声すら、
今では耳にいれたくない、聞きたくも無い、雑音となっていたのです。

王妃はその場からすぐ立ち去ろうとしましたが。
しかし、そんな折。
王妃に対しても、大変興味深い会話がされ始めたのです。


「褒められると細胞が活性化して若返るの♪
だから私。旦那さんに『君は綺麗だ。素敵だ。誰よりも輝いている!』って、
毎日会う度に褒めてもらっているんです。うふふ♪」

頬を染めながらも、はっきりとした口調で話すその下女に、
他の下女は興味津々とばかり、その話しに乗ってきます。

「そういえば。最近アンタの肌はつやつやしているわね(本当に効果あるの?)」
ある下女はそう云って、その肌に触れます。
確かに、つるつるすべすべの、もっちり肌でした。

「褒められるだけで綺麗になるって、嘘でしょ(結婚したせいだけではないのね)」
別の下女は、ふん、と鼻をならし、そっぽを向きつつも、
こっそりチラリと、その下女に視線を寄越します。

「でも私には、褒めてくれる恋人もいないし(綺麗になれば恋人が出来るかしら?)」
またある下女は、そう云って自分を貶します。

「あたしは高い美容液使ってんだ。そんなで綺麗になりゃ苦労しないわ!
(美容液買わなくていい!?)」
他の下女は、つっけんどんに云い切ります。

下女は皆、わいわいがやがやと好き勝手なことを云いますが。
彼女達の内心は皆同じでした。
『でも、本当にこの子、綺麗になったのよね。妬ましい!』


そうして下女達は本音と建て前を使い分け、
他の下女がこの娘のいうことを試させないために、
仲間をけん制し合っていたのです。

けれどもやはり、内面で思うことは皆一緒です。
『そんなことで綺麗な肌が手に入るなら、やってやろうじゃないのよ!
私がこの中で一番綺麗になってやる!』と。

白雪姫の母 2

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