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15日

ヂリン♪ ガン♪ カツン♪

尻尾の紙を手でつかみ、フチにガラスを軽く叩きつける。

「んーーーん、イマイチ」
額に皺を寄せながら、むぅ、と唸り、自分の手と紙を比べてみる。

「力加減が、難しい、のね」
よっし。
軽く紙の端を持ち、
そうして何度も何度も何度も、叩きつけてみたけれど。

――ガツン。

……重い、嫌な音が出るだけ。
あの軽やかな、澄んだ音色は、どうあがいても出そうにない。

はぁ。一つため息をついて、再度自分の手と紙を比べてみた。
「やっぱ手で動かしただけじゃ、綺麗な音が出るわけないか」
強がりを云って、私は紙から手を離してみる。

ふわり。
短冊は簡単に、手から離れていく。
羽根が生えたように、ゆっくりと、たおやかに。
まるで、私の元から自由になったのを喜ぶかのように。
けれど、自由になった短冊は、空気の抵抗を受けて静かに止まってしまった。

カツン。
最後に短冊に付いた重りがガラスに当たって、単なる音だけを出した。

「風に吹かれてこその、音色、なのかなぁ」
まじまじ風鈴を眺めてみたけれど、そんなの私にわかるわけがない。

ガラスには真っ赤な金魚と浮草が描かれていて、
短冊には、赤い金魚を見つめるように、黒い金魚が描かれている。
絶対に交わらない赤と黒。
自由な赤い金魚を羨む黒い金魚。

そう思うのは、私が自由じゃないから?
自由を望んでいるから?
でも、自由って、何?


風に命を与えられる風鈴だけれど、今、風は吹いていない。
だから本来の意味を果たしていない。
だから風鈴を手で揺らしてみた。
それだけ。

「結局はくたびれただけ、か。
背伸びをして、手を伸ばして、こっちゃった」
ううーん、と体を伸ばし、私も自由になることを選ぶ。
選択の自由は誰にでもある。
でも、風鈴も私も。
ほんの少しの、範囲付の自由でしかない。

「くたびれもうけ、っていうけれど。
儲けなんてなかったわ。
誰が持ってきたのかしら、この風鈴」

八つ当たりをするように、忌々しげに、風鈴を眺める。
けれど、風鈴はうんともすんとも云うことはない。

あれからどれくらい経つのかしら?


学校は夏休み。
部活動は、今日は休み。
今日は、記念日。
そう、戦争が終わった日。

ここは戦時中以前からある、古ぼけた学校だ。
歴史遺産とばかりに、残された学校だ。

今日は誰も学校にはいない。
静かにこの日を迎えるため、今日は誰も学校に入ることを許されていない。

教室の窓はどこも開いていない。
風が吹くことも無く、空間の空気は流れない。

廊下はシンと静寂が漂っている。
外からはセミのうるさい音が鳴り響いている。

窓ガラスに手をかけ、頭をこつんとぶつけてみた。

内部と外部との距離は、この窓だけなのに。
どうしてこんなに距離があるんだろう。

私は廊下の窓から、ぼんやり外を眺めた。
誰も居ない校庭は、あの当時を思い出させる。
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卒業式の日 12


うぉっ!?

俺の両ひざは、簡単に地へと落ちそうになった。
が、そこは俺持前の運動神経のよさがある。
なんとか持ちこたえることが出来た。


俺の心を読みすかしたのか!?
それとも、俺の薄ら笑いに怒りを感じたのか?
後ろの奴は俺の膝の裏を足先で蹴りやがった!
そう、ひざカックンだ……。
何て古典的な、卑怯な手法を使いやがる!

自分がしようとしたことなど、どこへやら。
怒りだけは人並みに湧いてくる。

な、何しやがる! とばかりに息勇み、
きっ、と後ろを向いて睨みつけたけれど。

ドチビは冷静に俺を見て、親指を立て、その指をゆっくり首に一直線に引いた。
“殺す”
目はそう語っている。

ひっ。
ぞっとした。
多分、こいつは本気だろう……。

たったそれだけの動きで、
俺のいたずら心など、どっかに吹っ飛んで行ってしまった。

それからは、真面目に列をなして足を運ぶことにした。

卒業式の日 11

ドチビの頭を押さえつけることほど、楽しいもんはねーからな。
ししし。

不気味な笑みが口元にこぼれる。
背中がフルフルと小刻みに揺れるのがわかるくらい、楽しくなってきた。

さぁて、今までの礼をどうやって返してやろうか。
それを想像するだけで、笑いが止まらない。
こらえようとしたって、どうしても、くっく、と笑い声が漏れてくる。

その声に気づいたのか、前の奴が怪訝そうな顔をして振り返ってきやがった。
おっと、やべ。
こんなところで怪しまれたりしたら、折角の思いつきも全部ぱぁじゃねーか。

そいつと目が合うと、何でもありませんよ、という意思表示として、
ごほん、と一つ咳払いをした。
顔をしかめられたけど、そのまま前を向いてくれて助かった。

そうして何でもないフリを装って、前の連中に着いていく。
落ち着け、冷静に……。
あんまり列を乱すと、また何いちゃもんつけられるかわかったもんじゃない。
あぁでも、この後、起きるであろう出来事に、どうしても笑いが止まんねーわ。

くっく、と一笑した後で、ようやく本当に冷静になれた。

よし!
意を決し、俺は振り返り、片手で後ろにいる奴の頭を抑え込もうとしようとした。
のだが。

うぉぅ……?

俺が振り返る前に、なぜか体がバランスを崩してしまった。


一瞬何が起きているのかわからず、
俺は本気で倒れ込みかけそうになり、
思わず前の奴の首根っこを引っ張りそうになった。

卒業式の日 10

あーー、うぜぇ。
右手で頭をかき、左手で安上がりな椅子に手を掛け、立ち上がる。


卒業証書授与、なんてこった。
なんか知らんうちに、終わりになったってことか?
あんなに繰り返しを見させられたっていうのに。
ちげーか。
俺、時々寝てたりしていたもんな。
こんで終わりになんなら、ま、いっか。
後ろの奴に小突かれるのも、もう飽きたしな。

ううーん。
目を思い切り瞑り、思い切り伸びをして、凝った体をほぐしていく。
目の前を見ると、やはり焦点が合っていないのか。
相変わらず、目は正常に機能していなかった。
けれど、慣れればどうということもない。
歩くのには何の障りもなかった。
見よう見まねで、前の連中の後につき、列をなして行進していく。

ふぁぁぁ。
のんびりと歩くのも、結構疲れるもんだな。
あくびをかみ殺して歩いていたら。
今度は後ろから、ど突かれた……。

うぉっと。
前のめりで、思わずコケそうになってしまい、慌てて態勢を立て直す。

マジでこいつ、俺のことが見えてんのか?
後ろを振り返りガン飛ばしてみた。
が。
逆に見ら見返された上、そっぽを向きやがった。
ひとっつも悪いなんざ考えちゃいない!
んか、ムカつくな!
ん? よく見たら、俺よりもちんまりしているじゃないか。
俺より頭一つは小さいぞ。

初めてそいつの背丈を見て、俺はいたずら心がうずいた。

卒業式の日 9

式は粛々と、行われていく。

人の入れ替えがあるだけで、檀上は何も変わらない。
座っている奴等も、何も変わらない。

つまらん。
そいや、式ってこんなに長いもんだったっけ?

改めて檀上を観察すると、ふとした疑問がわき上がってきた。

檀上の人間は入れ替わりが行われているけれど。
なんか、変じゃねぇか?

生徒らしき奴の姿を目にはしていない。

普通、在校生とか、生徒とか。
仕切っているもんじゃねーのか?
答辞や送辞とか、とっくに終わったのか?


ぼんやりと考えていると。
また絶妙なタイミングで、隣の奴が声をかけてきくる。

「ほら、もうすぐなんだから。
君がきちんとしてくれなきゃ、僕たち後に続くのが困るんだよ」
ぶつぶつと文句をたれながら、またもや俺の思考に入り込んでくる。

あーーー、もう、何だよ。
こいつは! うぜえ!

結局、そいつのせいで、俺の思考回路は遮断された。
だけじゃない。

さっきから俺のことを小突く奴に、
またもや、何度目かの怒りの口調と肘鉄をかまされている。

チクチクチクチクとまぁ、何なんだよ!

ぎっ。と、睨んだところで。
その対象物が平然としてちゃ。
……何だか自信を失いそうになるじゃないか。
はぁ。
脱力した俺に向かい、追い打ちをかけるがごとく、そいつは冷めた言葉を云い放つ。

「もうすぐだから準備をしろ」

って、何のだ?

ほら、立ちあがって、列に並べ。
と云ってくる。

そうじゃないと、君のせいで僕は卒業証書を貰えなくなってしまう。
そういう文句付きで。

あーーうぜぇ!
俺がいようがいまいが、
卒業する当人がいりゃ、自動的に貰えるもんじゃねーのか?
そんなに卒業証書が欲しけりゃ、順番変えりゃいいじゃねーかよ。

けれど、そんな言葉は、口から出ることは無かった。

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