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卒業式の日 8

はぁ。
なに、らしくないこと、考えてんだかな。

天井を仰ぎ、意識も上へ向ける。
頭にかかった闇を取り払おうとして、光を見つめる。

うじうじとしているからケツ叩かれて、追い出される。
だから知らねー間に、前に進まされる。
前に進まされるから、先に行くしかない。
……他力本願だな。

そうやってケツ叩かれるのは、学生時代だけだ。
その先は。
自分で切り開くしか、ねーんだよな。

はぁ。

やりたいことが、わかんねー俺みたいなのにとっちゃ、
それが楽で、心地よかった。
でも、苦しかった。
だから、目線を逸らしたかった。

そうだ。
やりたいことを見据えている周りの奴等を見ているのが、苦しかったんだ。

前を向いている奴等は、誰に云われなくたって、勝手に前に進んでいる。

焦れば焦るほど、何も見えなくなる。
この場所から離れれば、何か、変わるのか?

卒業式の日 7

俺は視線を真っ直ぐ前に向け、平然と心の中で、悪態をついている。

理由は単純だ。

この場には、どうしてだか嫌悪感しか持てないからだ。


最初は知らない場所にいて、訳がわかんなくて混乱したけど。
いざ、この場所で、何をしているのか理解したから、だろう。

どうにも落ち着かない。


そうさ。式なんてもんは暇だし、感動するもんでもないし。

目の前で粛々と行われている行事に、
それを見て涙ぐんでいる奴に、
無性に腹が立つからだ。

みっともない。涙なんて見せるんじゃない。
心の中で、隣の奴の態度に文句を云ってみる。
けれど、空しいだけだった。

そう。
俺はただ、素直に泣けるそいつが羨ましいのかもしれない。



……感激しちゃったらさぁ。
寂しいじゃんか。

心の中に、本音がぽつり、ぽつり、とこぼれ落ちていく。
卒業、なんて。
したくない、よな。

真面目にやらなきゃなんないんだし。
大人にならなきゃなんないんだし。
この先、一人ぼっちになるんだぞ?

馬鹿やってた時間とも、友達とも別れるんだし。
箱庭の中での、期限付きの自由が奪われてしまう。

そう思った瞬間、足元が崩れ去るように感じられた。

今居る、その先があまりに見えなくて。
だからこそ、今居る場所があまりに心地よいというのを実感して。

いや違うか。今ある場所を手放すのが怖いんだ。

けれど学生時代というのは無常にも、数年が過ぎれば追い出される。
たとえ、留年したところで、期限付きだ。

卒業式の日 6

まったくさ。何が楽しいんだか。

隣の奴が目を輝かせて見る先を、俺も同様にただ眺めてみた。
そうすりゃ、何か別のもんが見えるかもしれない。
とか、思ったり、思わなかったり。

檀上の上では、人が降りたり上がったり。
せわしなく移動しているのが見て取れる。
その間に、一人で気持ちよさげに喋っていく。

相手がいなくて、よく器用に一人でぺらぺら云えるもんだ。
ある意味、感心するわ。

遠くから見れば見るほど、その姿は働き蟻のように思えてくるから不思議だ。

こちとら、踏ん反り返って、その様子を見ているだけ。
蟻とキリギリス、ってか?
あーそいや。キリギリスは遊び過ぎて、最後に死ぬってか?
はっ、なんだか笑えねーわな。
自分の皮肉な妄想に、どこか背筋がヒヤリとする思いがした。

檀上にいる少数派の奴等が偉いはずなのに。
それでも床に折りたたみ椅子に座っている、コッチ側の俺たちが偉く感じられる。
ってか、座れなきゃ、やってらんねーわな。

深呼吸の代わりに、腕を組んだり、組んでいた足を組み替えたりと、
寝ないための無駄な努力を試みてみた。

はぁ。
つまるところ、興味の無いことに長時間付き合わされるのは、拷問でしかない。
それが証明されたということだ。

校長や来賓の言葉なんて、価値があるのか?
つまんないこと云うだけで、無意味じゃないか。
ためになるようなことも、笑わせるようなことも、何も云わない。
それのどこが有難いんだ。
有難迷惑なんじゃないか?

あーー、でもなぁ。
こいつのように感激する奴もいるんだよなぁ。

ちらり、と横を覗き見すると。

……。
奴はいつの間にやら、ティッシュを取りだし、鼻をかんでいるではないか。
しかも、かんだティッシュはけっこうな山となって、いる……。
俺には全く理解出来ない奴だ。

しかしなぁ?

こんな奴、俺の同級生にいたっけなぁ?
同級生ではなかったとしたって、こんな奴、見たこと、あったっけ?

卒業式の日 5

あーーー、くそ、ダメだ。
くだらないことを考えると、よけいに瞼が重くなってくる。
手で頭を軽く叩いたところで、睡魔は襲ってくる。

つい、うつらうつらと船をこぎ始めると。

……隣から。
なにやら不穏なオーラが漂ってくるのが、わかる。
わかってしまう俺が恐ろしい……。
そろり。
俺は何気なさを装いつつ、隣に目線を寄越してみると。

あっちゃーー……。
何だよなぁ。
こいつ、俺のストーカーか?

俺の睡魔をどうして感じ取るのか。
またもや隣の奴が睨みをきかせてきているよ、おい。
気持ち悪いにもほどがあるだろう。
はぁ。何だよ、もうなぁ。
さっきまであんなに泣いていた奴が、もう怒りの表情だ。
こいつ、やっぱ、変だわ。

睨み返そうとしたけれど、向こうの方が一枚上みたいだ。
俺の視線に気づくと、ふん、と云わんばかりの表情を作りやがる。
まるで、出来そこないを指導するお偉いさん、といったところか?
優等生はさすがに違いますことよ、ってとこか。
あーーー、何だかムカつく!
内申なんてもう関係ねーだろうよ。
俺みたいなのを指導したところで、どうってことないんじゃないの?
と、思いつつも。

なんでか、俺の心は平然としていた。
これって、あきらめ?
いやいやいや。最後の最後で揉めたくもありゃしないし。
眠気もそがれた。
それだけだ。きっとそうだ。

俺は腕組みして、正面を見据えた。
隣の奴は俺の態度に満足したのか、また檀上を凝視し始めた。

はぁ。
もう勘弁してほしいわ。
すること無くて、椅子に長時間座ってるのって、マジないわ~……。

他人の表情は見えるけれど、体は見えない。
気分悪くなるから見たくないと思って目を瞑りゃ。
隣の奴から、批難轟轟の表情の嵐。
やってらんねーっちゅうの。

だったらさ。
多少の気持ち悪さは我慢して、
今度は俺がそいつを観察してみようと思った。
さっきのお礼、というもんじゃないけれどさ。
暇つぶしでもしとかないと、また寝そうだし。

こいつのことだ。
今度俺が寝たら、次は足蹴り。
それでも効かなきゃ、最後は頭を殴ってきそうだよな。
そう、目に涙をいっぱい溜めて。怒りに震えて、わなわなと。
まるでチワワのように。
そういや、チワワって、でかい目に水の膜が張ってて、ぷるぷる震えて……。
まるで、こいつのようじゃね?
想像しただけで、
ぶふっ!
思わず吹き出してしまった。
げっ、しまった……。
恐る恐る隣を見る。

けれど。
隣の奴は、それくらいのことには何も反応しなかった。

なんだ? こいつ。
普通だったら、不謹慎だろう! 
とか云ってくるか、睨み付けてきそうなもんなのにな。
こいつの基準というのがわからん。
まったくもって、真面目な奴ほど、何考えてんのかすら、わからんわ。

正面の一点を見据えて、ただただ呆けたような。
いや、恍惚しているような表情だな。
俺の存在など知らない、と云わんほど真顔になっている。
一言一句、聞き漏らさないかのような真剣さに見えるよな。
ノートとかあったら、がりがりとメモっていそうな奴だな。
あ~、真面目な奴って、どうしてこうも他人の言葉を信じたがるのかね。
そんなに檀上の奴はカリスマなのか?

だったら最初からそういう風に真剣に聞いておいて、
不真面目な俺をほっておいてくれりゃいいのにさぁ。

一体なんだっていうんだか。

卒業式の日 4

誰も俺がそんなことを考えているとは思わないだろう。
そりゃそうだ。
こんな式が早く終わってほしい、って考える奴は、多少はいるだろうけれど。


とはいえ、周りを見回す勇気は今の俺には無かった。
顔は見えても、顔から下が霞かかったように見えるのだけはごめんだったからだ。

なんていうの?
気分が悪くなりそうなんだよ。
頭がぐらぐらして、足元がふらふらして。
あぁ。そうだ。
酔っ払いとか、そういう感じとおんなじなんだろうよ。
うぇ。
大人になっても、酒なんて飲みたかねーわな。

つまらない感想をもたらしてはいたが、気が晴れるわけじゃない。

どうにかこうにか気を取り戻し、
俺は隣の奴を憐れむように、見やってやろうとしたが。

あ??
組んでいた両腕が思わず、ずり落ちそうになるくらい、
思いっきり脱力して、椅子から転げ落ちそうになった。

なぜなら。
そこには感極まったように涙ぐんでいる顔があったからだ。

んだ? こいつは。
おいおいおい。
マジ、ねーわ。

そんなに檀上の話しは感動モンだったのか?
俺には全くその声すらもが聞こえないというのに。

そいつは鼻をすんすんと鳴らしながら、
視線を前に向けて、真っ直ぐに聞き入っているじゃないか。

そんなつまらないことが俺の頭をかすめたのは、ほんの数分だっただろうか。

誰にも邪魔されることなく、式は滞りなく、順調に規則正しく流れていく。
次第に俺は、隣の奴のことすらどうでもよく思えてきて、
段々と、睡魔が襲ってくる。

あぁそうか。
さっきの俺は、こうやって寝落ちしたんだろう。
納得しかけて、ようやく俺はまた、深い睡眠に陥ろうとしていた。

檀上の奴等の声はまったく聞き取れない。
よくこいつは涙ぐめるほど、その声に感情移入出来るもんだ。
嫌味じゃなくて、マジで感心するわ。

ふぁぁぁ。
大きなあくびとともに、俺はまた夢心地になっていく。
そうだ。俺には檀上の奴等の声が、よく聞こえないんだ。
子守唄にしか、聞こえ、ないんだ、よな。

自分の母国語にすら聞こえない声を、どうしてだか何も疑問がわかなかった。

元々、視力よか、聴力にゃ自信が無いせいでもあったのかもしんねーな。
目が見えなくなるよりも、耳が聞こえない。
その不自由さがまるで違うだけだ。
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